サミット解散か花道退陣か――岸田首相が迎える勝負の半年 平田崇浩
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「安倍政権でもできなかったことを岸田政権は成し遂げた」。岸田文雄首相の周辺からこんな声が聞こえてくる2022年の年の瀬。「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有に踏み出し、防衛費の国内総生産(GDP)比2%への増額に道筋を付けた岸田文雄首相の決断は歴史的な重みを持つ。問題は、そうした政策決定の重みとは対照的な首相の言動の軽さにある。
22年は岸田首相にとって輝かしい一年となるはずだった。7月の参院選で勝利した先には、大きな国政選挙に政権の体力をそがれることなく政策課題に取り組める「黄金の3年間」を手にするといわれていた。それを棒に振る形で新年を迎えることになろうとは夢にも思わなかっただろう。
「安倍レガシー」頼み
22年夏以降の内閣支持率の急落は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題への対応が後手に回り、反対論が多数を占めた安倍氏の国葬を強行した結果だ。物価高騰に国民が苦しむ中、民意に寄り添うどころか、政権維持にきゅうきゅうとしている印象を与えた岸田首相の不徳と言うほかない。
岸田首相は何をやりたかったのだろう。21年9月の自民党総裁選では「新しい資本主義」と「令和版所得倍増」を唱えた。競争重視の新自由主義が経済格差を拡大させたとの問題意識から「経済・財政の分配機能を強化し、所得を引き上げる」と主張した岸田首相に対しては、金融緩和と国債依存の弊害が顕在化していたアベノミクスのソフトランディング(軟着陸)を期待する声もあった。
しかし、分配重視の具体策として富裕層をターゲットにした金融所得課税の強化を模索したことが株価下落を招き、腰砕けになった首相の口から「分配」の言葉は消え、22年11月に決定したのが「資産所得倍増」プランだ。分配強化による格差解消は諦め、貯蓄から投資に回る個人資産を増やすことで経済成長につなげようという計画は、株価至上主義のアベノミクス路線の継続にほかならない。
岸田首相の22年は、安倍元首相のレガシー(政治遺産)にしがみつくことに明け暮れた一年と言えないか。22年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻と、資源・食糧価格の高騰による世界的なインフレは日本の政治も揺さぶった。安倍政権時代の親露外交から主要7カ国(G7)結束へ軌道修正はしたが、脱アベノミクスへかじを切る機会を逸し、日本における物価高騰は円安インフレと呼ぶべき負のスパイラルに陥っている。
岸田政権がこの一年で新たに打ち出した施策といえば、反撃能力の保有を含む防衛費の大幅増、原発の新増設、資産所得倍増など、安倍氏が敷いたレールの延長線上にあるものばかり。安倍氏の国葬を強行したのは保守層の支持を取り込むためと思われたが、追悼の辞で「あなたが敷いた土台の上に、持続的で、全ての人が輝く包摂的な日本を、地域を、世界をつくっていく」と誓ったのは安倍レガシー継承の宣言だったわけだ。
日銀総裁人事の関門
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週刊エコノミスト
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