米国経済が景気後退しても傷は浅いと考える三つの理由 荒武秀至
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利上げによる景気下押しが年後半に顕在化。ただ、サービス消費が根強く、家計と企業財務は健全で、23年秋に利下げに転じれば24年の回復が見えてくる。
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2023年の米国経済は景気後退入りを避けられないだろう。40年ぶりの高インフレを抑えるべく、米連邦準備制度理事会(FRB)が22年に累計4%超の大幅利上げをした影響が、タイムラグをもって23年の景気を押し下げるためだ。すでに、金利に敏感な住宅投資と耐久財消費は急速に冷え込んでいる。
22年初に3%であった米国の住宅ローン30年固定金利が一時7%台に急上昇したため、中古住宅販売は22年初の年率649万件から10月には同443万件に落ち込んだ。金利高に加えて物価高も自動車・家具家電の販売を直撃し、数量でみた実質耐久財消費は22年初から3四半期連続で減少した。
年間の累計利上げ幅が2%を超えると景気後退入りする経験則があり、今回は倍の4%に達するので絶望的だ。しかも、FRBは23年春先までは利上げを継続するとみられ、政策金利(FF金利)の最終到達点は5%を超える可能性も高い。景気後退を示唆するシグナルは枚挙にいとまがない。フィラデルフィア連銀の22年10月調査では、全米50州のうち過半の27州が景気悪化し、過去の景気後退入りの水準に達した。
市場が景気後退を示唆する長短金利差も、10年国債利回りがFF金利を下回るマイナス圏に入った(図1)。マイナス幅は今後さらに拡大し、23年5月にはマイナス2.5%となり、23年後半に景気後退入りが予想される。
だが、大幅利上げで金利敏感部門が冷え込む一方、まだ米国経済が失速しないのはなぜか。利上げ効果が表れるまでタイムラグがあることと、金融引き締め効果を弱める三つの要因が影響している。
第一に、コロナ禍の行動規制撤廃だ。米国では行動規制は過去のものになり、旅行、宿泊、外食などサービス業が恩恵を受けている。
第二に、ここ数年続いた不動産高騰と株高による資産効果が消費を支えている。22年に株価は下落したが不動産価格は横ばいなので、22年6月末時点で家計の純資産残高は可処分所得の7.7倍もある。1000万円の所得がある人は7700万円の純資産を抱えていることになる。
家計に巨額の過剰貯蓄
第三は、コロナ支援金という財政バラマキにより、家計が過剰貯蓄を抱えていること。FRBの試算(22年10月)では、20~21年夏の間に2.3兆ドルの過剰貯蓄を築いた。人口3.3億人で割ると1人当たり約100万円もの追加貯蓄とかなり大きな額である。実際に、家計の現預金残高は…
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週刊エコノミスト
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