教養・歴史書評

なぜあの戦争は起きたのか 戦前日本を描く新書2冊で考える 井上寿一

 12月は8月に次いで戦争の記憶を呼び戻す月だろう。1941年12月8日の真珠湾攻撃は、緒戦の勝利にもかかわらず、結局のところ日本の国家的な破局につながった。なぜ戦争は起きたのか。昭和戦前史は戦争への道として描かれることが多い。筒井清忠編著『昭和史研究の最前線』(朝日新書、1001円)も、副題が「大衆・軍部・マスコミ、戦争への道」となっているように、同様の問題関心を持つ。

 類書と比較すると、大衆社会状況のなかで「戦争への道」を煽(あお)ったマスコミの責任を論じているところが本書の特長というべきだろう。例えば、満州事変を巡って、日本の外務省は中国を非難する新聞論調と一線を画しながらも、国際社会の側から見れば、外務省と新聞の満州事変観は一体のものだった。

 あるいは、戦争回避を目的とする日米交渉が続けられる中で、新聞は対米強硬の論調に傾いていた。このように、マスコミに扇動された大衆が戦争を支持したのである。

 佐々木雄一『近代日本外交史 幕末の開国から太平洋戦争まで』(中公新書、924円)は、近代日本外交史の通史としてだけでなく、同様の問題関心から読むこともできる。

 この観点に立つと、原敬の外交指導に対する評価が目を引く。本書は原内閣期の外交の基調が対米英協調の「大勢順応」だったことを確認する一方で、「日露戦争…

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