天下人の威光と悲哀をしのぶ長谷川等伯と長男久蔵の競演を体験しよう 石川健次
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美術 「京都・智積院の名宝」展
天下人の豊臣秀吉は、3歳で夭折した息子、鶴松の菩提寺として、京都に祥雲禅寺(祥雲寺)を建立した。その客殿に描かれた障壁画のひとつが、図版の国宝《楓(かえで)図》だ。秀吉の威光を、また悲しみの大きさを反映するかのように、「当時から善美を尽くしたものと知られ」(本展図録)ていた。
大坂夏の陣で豊臣家が滅んだ後、徳川家康の計らいで障壁画とともに寺領を拝領した智積院は、火災など災厄に見舞われながらも、京都・東山の地で今日まで“桃山絵画の精華”と謳(うた)われる絢爛(けんらん)豪華な障壁画の数々を守り伝えてきた。障壁画をはじめ、重要文化財の《孔雀明王像》など智積院に伝わる多彩な名宝を一挙紹介するのが本展だ。
私のイチオシは《楓図》だ。いや、この作品と並んで展示されている同じく国宝の《桜図》も併せて推したい。横7メートルを超える大画面の《楓図》と同じく6メートルを超える《桜図》が並ぶ展示は圧巻だ。
金地を背に赤や緑に塗り分けられた色鮮やかな楓の葉と、その傍らに寄り添うように秋の草花が生い茂る《楓図》、大輪の花弁が画面いっぱい咲き誇り、春爛漫(らんまん)の風情にあふれる《桜図》と、まるで春秋それぞれの美を競うかのような両作品のたたずまいに見ほれた。
実はこの2点、ある親と子の競演でもある。《楓図》を描いたのは、国宝《松林図屏風》(東京国立博物館蔵)でも名高い桃山時…
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週刊エコノミスト
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