バイオテロに遭遇の旅客機が象徴する世界の「分断」と解決のヒント 寺脇研
有料記事
映画 非常宣言
「非常宣言」とは、航空機が発する緊急時不時着要請を指す航空用語だという。ここでは、ソウル→ホノルル便旅客機がバイオテロに遭い、まき散らされたウイルスが機内に充満しているため不時着を拒否され太平洋上をさまよう。
感染が広がっていき、パイロットの操縦も怪しくなる中、満員の乗客や乗務員たちの運命はどうなるのか……。2時間20分の長丁場を息もつかせない。最初の危機をなんとか乗り切れそうになると、さらに次の困難が生じる繰り返しで、展開の緩急が単にピンチが続くよりも切迫感を際立たせる。
機内と、救助対策を練るソウルとを交互に描く呼吸が絶妙で、スリルとサスペンスが混交しながら進行していく。しかも、対策本部─コックピット間の交信と並行して乗客の携帯が地上のニュースをキャッチしたり家族との通話を可能にしたりするから、重層的に情報が往来して話に厚みを加える。こうした見事な手際で、航空危機劇、刑事推理劇、政治交渉劇を交錯させ、我々観客を作品世界へ引きずり込んでくれるのだ。
加えて、現在の世界が抱える多様な問題にも鋭く斬り込んでいる。ウイルスが犯人の手に渡るプロセスは、新型コロナウイルスと同様のパンデミック(世界的大流行)が常に起こり得る状況であることを認識させるし、今をときめく多国籍企業が国や社会への帰属意識を欠くがゆえに社会的責任を無視する危険性の深刻さも扱われている。
着陸させるかどう…
残り676文字(全文1276文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める