教養・歴史書評

家族の死、借金、認知症――壮絶なサバイバルの記録を読む 美村里江

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 現代にありがちな煽(あお)りタイトル……ではないドキュメントエッセー。『心の壊し方日記』(真魚八重子著、左右社、1980円)

 読んだのが年末前の時期で、友人たちから実家についてのあれこれを聞いていたし、30代後半という年代=親も高齢化して健康や経済にいろいろ起きる時期であることも手伝い、章を読み終えるごとに一呼吸おいて目線を窓外に移したくなる、壮絶かつ懸命なサバイバル記であった。

 優しかった長兄の死をスタートに、知られざる散財癖とセルフネグレクトらしきゴミ屋敷発覚で、既に一冊分の重みがあるだろう。さらに進行していく親の認知症と、根源的な家族の構造上の問題。

 まずは長兄の借金と母のずさんな財産管理を整理整頓しようと奔走する著者。土地や建物の権利、実父亡き後の母の生活、母と長兄の関係、母の日常……、知らないことだらけである。必死でモヤをかき分けて進む著者は、なんとか然(しか)るべき専門家の手や行政サービスの手を借りてこれらを解決しようとする。

 しかし、そこに大きく横たわるのは、女性である著者を女性である実母が軽視し、耳を貸してくれないという大問題。これにより、何度も何度も積み上げたものが台無しになる様子は、読んでいるだけで疲労感が半端ではない。思わず「またか…」とうめき声が漏れてしまう場面の連発である。

 知らなかった事実の堆積(たいせき)物に覆われ、著者は自分の人生を何度も多角度から振り返る。とことん現実を煮詰めたハードな内容は読む人間を選ぶと思うが、ごく一般的な家庭でも少しのゆがみだけで起こりうる災禍だという観点に立てば、学びになる質量はハウツー本の比ではない。

 コロナ禍やSNSの炎上など、時代の荒波のせいで著者が最終的に陥ってしまう選択はあまりにも……。精神的に参っている時に、魂の納めどころと言える愛読書の詰まった本棚を処分してはならない、ということは忘れずにおき…

残り590文字(全文1390文字)

週刊エコノミスト

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