近現代の日本社会と日本軍への固定概念を揺るがす海外の研究書2冊 井上寿一
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海外における日本近現代史研究の水準はきわめて高い。幸いにもすぐれた訳業による翻訳書で読むことができる。以下では2冊、紹介する。
最初はベンジャミン・ウチヤマ『日本のカーニバル戦争』(布施由紀子訳、みすず書房、4620円)である。本書は1937年から45年までの総力戦を「カーニバル(祝祭)戦争」と名づける。
この「カーニバル戦争」を盛り上げたのは、従軍記者、職工、兵隊、映画スター、少年航空兵だった。これら五つの視点から日本の大衆文化の全体像を再構成すれば、そこに発見できるのは、「帝国臣民」と大衆文化の消費者としての二つの役割を演じ分けていた大衆の実像である。
戦前の平和な時代の「エロ・グロ・ナンセンス」が「お祭り騒ぎ」の戦争に影を落とす。モダンな大衆社会が戦争の暴力を許容する。本書は「カーニバル戦争」下の日本の文化の諸相を通して、加害者であると同時に被害者でもあった日本の大衆の姿を活写している。
つぎはサラ・コブナー『帝国の虜囚』(白川貴子訳、みすず書房、5280円)である。本書も日本人の固定観念を突き崩すスリリングな歴史叙述に満ちている。
日本軍は捕虜を虐待したのか。平均的な日本人は、疑問の余地なく肯定するだろう。対する本書は、日本軍の捕虜に対する非人道的な行為があったことを前提としながらも、なぜそう…
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週刊エコノミスト
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