90年代前半のプサンを背景に「仁義なき」世界を描く 寺脇研
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映画 野獣の血
かつて日本には、「ヤクザ映画」と名付けられた系譜があった。中でも、今年が公開50周年となる菅原文太主演「仁義なき戦い」(1973年、深作欣二監督)を元祖とする実話を基にした「実録ヤクザ映画」というジャンルは、彼らの生態をリアルに描いて人気を呼んだ。
ところで、「反社会的勢力」と言い換えられるようになった昨今では忘れられかけている言葉「ヤクザ」は、韓国でもそのままヤクジャと発音して使われる場合があるほど通用している。勢力圏を指す縄張り=ナワバリも、一般名詞となっているほどだ。日本占領期の影響もあるだろうが、それ以前に、両国共通の儒教思想に沿った親分子分や兄弟分の疑似家族関係が反社会組織の基盤となっている点が大きいと思われる。
この映画が取り上げるのは、プサンに根を張る勢力同士の抗争である。ソウルよりはるかに日本と近い距離にある韓国第2の都市は、北九州とは一衣帯水の地で意識が強く似通っていると言われる。「友へ チング」(2001年)、「悪いやつら」(12年)など幾多の韓国「ヤクザ映画」の舞台となっているのも合点がいこう。
話の核になるのは、親分と子分、兄貴分と弟分の人間関係、利害関係の錯綜(さくそう)だ。児童養護施設で育った孤児である主人公は、グレていたところを小さな港町の親分に拾われ、忠実な子分として今はナンバー2の座にある。彼らの縄張りを奪う野心を持つ大きな勢力と、…
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週刊エコノミスト
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