教養・歴史アートな時間

90年代前半のプサンを背景に「仁義なき」世界を描く 寺脇研

©2022 KidariStudio, Inc.&WHALE PICTURES.All Rights Reserved.
©2022 KidariStudio, Inc.&WHALE PICTURES.All Rights Reserved.

映画 野獣の血

 かつて日本には、「ヤクザ映画」と名付けられた系譜があった。中でも、今年が公開50周年となる菅原文太主演「仁義なき戦い」(1973年、深作欣二監督)を元祖とする実話を基にした「実録ヤクザ映画」というジャンルは、彼らの生態をリアルに描いて人気を呼んだ。

 ところで、「反社会的勢力」と言い換えられるようになった昨今では忘れられかけている言葉「ヤクザ」は、韓国でもそのままヤクジャと発音して使われる場合があるほど通用している。勢力圏を指す縄張り=ナワバリも、一般名詞となっているほどだ。日本占領期の影響もあるだろうが、それ以前に、両国共通の儒教思想に沿った親分子分や兄弟分の疑似家族関係が反社会組織の基盤となっている点が大きいと思われる。

 この映画が取り上げるのは、プサンに根を張る勢力同士の抗争である。ソウルよりはるかに日本と近い距離にある韓国第2の都市は、北九州とは一衣帯水の地で意識が強く似通っていると言われる。「友へ チング」(2001年)、「悪いやつら」(12年)など幾多の韓国「ヤクザ映画」の舞台となっているのも合点がいこう。

 話の核になるのは、親分と子分、兄貴分と弟分の人間関係、利害関係の錯綜(さくそう)だ。児童養護施設で育った孤児である主人公は、グレていたところを小さな港町の親分に拾われ、忠実な子分として今はナンバー2の座にある。彼らの縄張りを奪う野心を持つ大きな勢力と、…

残り681文字(全文1281文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事