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トヨタ「異例」の社長交代 世界的EVシフトに対応 河村靖史
トヨタ自動車は4月1日付で、13年間トップの座にあった豊田章男社長が代表権を持つ会長となり、後任にレクサスとガズー・レーシング部門を担当する佐藤恒治執行役員が就任するトップ人事を発表した。突然の社長交代、そして後任にダークホースを選んだことから業界に驚きの声が広がっている。
社長交代は記者会見ではなく、厳しい質問を避けるためなのか、トヨタの自社メディア「トヨタイムズ」を活用するという異例のやり方で発表した。
豊田社長が社長交代を決断したのは、内山田竹志会長が退任を申し出たのがきっかけだという。その背景には世界的な電気自動車(EV)シフトの加速がある。
豊田社長はカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)社会の実現に向けては、水素エンジンや燃料電池車、合成燃料など、地域に適した環境対応車の普及を訴えてきた。しかし、世界的に環境対応車といえばEV一辺倒になりつつあり、トヨタが得意なハイブリッド車も市場から追放する動きが加速している。
豊田社長は自身を「どうしても最後はクルマ屋の枠を出られないクルマづくりに向かってしまう。デジタル、電動化、コネクティビティー(つながるクルマ)に関して私はもう古い人間だ」と評し、トヨタをモビリティーカンパニー(移動にかかわるあらゆるサービスを提供する会社)に変革するため「一歩引くことが今必要」と判断したという。
その豊田社長がトヨタの未来を託すのに佐藤氏を選んだのは「トヨタの思想、技、所作を身につけようと、クルマづくりの現場で必死に努力してきた人で、もう一つはクルマが大好きだから」と説明する。佐藤氏は53歳で、豊田氏の社長就任時と同じ年齢。佐藤氏はトヨタのトップとして「継承と進化をテーマに、創業の理念を大切にしながら、商品と地域を軸にした経営を実践し、モビリティーカンパニーへのフルモデルチェンジに取り組む」と、トヨタを変革する決意を示した。
集団指導体制に移行
佐藤氏はエンジニアだが「カローラ」や「プリウス」の部品開発を担当したほか、上級クーペモデル「レクサスLC」の開発責任者を務めた程度。取締役でもなく、目立った功績はほぼない。それだけに次期社長レースでは完全にダークホース的な存在だった。ただ、水素エンジン車の開発を担当し、これを使ってレース活動していることから、レース好きの豊田社長と親密な関係を築いた。
そんな佐藤氏は社内基盤が弱いため「チーム」による集団指導体制で運営する方針で、新しい経営体制でも引き続き豊田氏が経営の主導権を握る。ただ、豊田社長は会長就任後、水素エンジンなどのEV以外の環境対応車も、カーボンニュートラルに対応する選択肢とすることの理解を国内外に広めるため、経団連などの財界活動にも重点を置くと見られる。
出遅れているEV時代を生き残るため、経営体制の刷新に踏み切るトヨタ。その思惑通りに事が進むかは不透明だ。
(河村靖史・ジャーナリスト)
週刊エコノミスト2023年2月14日号掲載
トヨタ「異例」の社長交代 佐藤氏抜てきで経営体制刷新 世界的なEVシフトに対応=河村靖史