経済・企業 テスラ試乗1500キロ
世界で最も売れたEV「モデルY」は日本車を駆逐するのか/上(編集部)
米国の電気自動車(EV)メーカー「テスラ」の人気SUV「モデルY」を借り、2日間で計1500キロの長距離試乗をした。2022年通年で世界で最も売れたEVの実力を知ることは、今後の自動車業界の行方を探るうえで、大いに参考になるためだ。
再生可能エネルギーやEVについて発信する米オンラインメディア「CleanTechnica」によると、2022年1~12月のEVとPHV(プラグインハイブリッド車)の車種別販売ランキングで、モデルYは77万1300台を販売し、世界1位となった。2位は中国BYDの「宋(Song)」の47万7094台だが、これはEVとPHVを合わせた数だ。3位はテスラの「モデル3」で、47万6336台だった。
モデルYとモデル3の合計では世界販売1位
実はエンジン車も含めた世界ランキングを見ても、EVの存在感が高まっている。独統計会社「Statista」によると、22年の世界の最量販車種はトヨタ「カローラ」の112万台、2位は同「RAV4」の87万台、3位は米フォード「Fシリーズ」の79万台で、モデルY(76万台)は4位となる。ただし、モデルYと同じプラットフォーム(車台)を利用したモデル3を合わせると124万台強と、トヨタのカローラを超える。
モデルYとモデル3にはまだまだ販売が増える余地がある。テスラが1月25日に発表した決算資料では、両モデルの直近の生産能力は全世界で180万台だ。内訳は、米カリフォルニア工場が55万台、上海工場が75万台、独ベルリン工場と米テキサス工場がそれぞれ25万台。さらに、韓国かインドネシアに新工場を造る観測も出ている。
日本で最大82万円値下げ
量産によるコスト削減と値下げ余地は大きく、同業他社のEVだけでなく、既存のエンジン車やHV(ハイブリッド車)にとっても脅威だ。実際、テスラは1月、モデルYの日本での販売価格を上位モデル「パフォーマンス」で833万円から751万円に、下位モデル「RWD」を644万円から580万円に引き下げた(2月に入ってRWDは583万円に値上げ)。同様に、米国や中国でも値下げをしている。
一方、日本ではEVはまだまだ、マイナーな存在だ。日本自動車販売協会連合会によると、2022年のEVのシェアは1.4%で、15%の欧州や、5.8%の米国に比べて普及は進んでいない。しかし、世界一の量販車種である「カローラ」を凌駕するまでになったEVを知ることは、日本の自動車産業の未来を語る上でも必要だと思う。
航続距離はWLTCで595キロ、電池容量は75キロワット時
前置きが長くなったが、今回、長距離の試乗を行ったのは、上述のモデルY「パフォーマンス」。前後にモーターを積む4輪駆動のモデルだ。航続距離はWLTCモードで595キロ。最高速度は250キロ、静止から時速100キロまでの加速時間は3.7秒だ。搭載電池の容量は75キロワット時である。出力は前輪が158キロワット、トルクが240ニュートンメートル、後輪が235キロワット、トルクが450ニュートンメートルだ。
試乗は東京―丹後半島の往復1500キロ、充電6回
今回は、東京を出発し、京都府の丹後半島の伊根町まで高速を経由して約600キロ走行、有名な「舟屋」を見学し、夜は京都市内で一泊し、翌日は長野県の白馬村で雪道の性能を試し、東京まで戻ってくる行程だ。2日間の総走行距離は約1500キロ。充電はテスラの高速充電設備「スーパーチャージャー」で計6回行った。
初日の2月4日(土)は、朝の6時に東京・用賀を出発。天気は晴、気温は4度だった。東名高速の東京インターチェンジから高速に乗り、西に向かう。ドライバーは私と助手の2名。渋滞もなく、快調にクルマを走らせる。テスラに乗るのは、昨年2月にモデル3で、長野県や新潟県の大雪の中を走って以来だ。
視界は良く、解放感も高い室内
モデルYの内装はモデル3と変わらず非常にシンプルで、目に入るのは、ハンドルとダッシュボード中央部の15インチの液晶パネルだけ。あとは、ドアに開錠ボタンとパワーウィンドーの開閉ボタンが設置されているのみだ。ハザードボタンは、頭の上、バックミラーの手前についている。
しかし、車高がモデル3より高く、かつ、フロント窓の上下の幅があるため、視界がとても良い。ダッシュボードに無駄な造形がなく、水平に一直線であることも、視界の確保に役立っている。天井が高く、広大なガラスルーフが標準装備で、車内の開放感が高いのも美点だろう。
両モデルの寸法を比較してみる。モデルYは全長4751ミリ(モデル3は4694ミリ)、全幅1921ミリ(同1849ミリ)、全高1624ミリ(同1443ミリ)、ホイールベース2890ミリ(同2875ミリ)、車重2000キロ(同1801キロ)とモデル3より一回り大きい。
内装はオプションの白内装(12万6000円)で、シートが白の人工皮革であるほか、ダッシュボードの下の段のパネルが白となる。1500キロの走行を経て、このシートの出来に驚かされた。全く腰が痛くならないのだ。私は元々、腰痛持ちではないのだが、昨年2月にモデル3を2日間で約900キロほど走らせたときは、結構、腰が重くなった。同乗者も同じ感想だった。その時は黒の人工皮革のシートだったが、今一つ、腰の支持が良くなかったのだ。それに対し、今回のモデルYはしっかりと腰を支えてくれるので、いくら走っても腰が疲れることはなかった。これは同乗者も同意見だった。
高速安定性の高さと静粛性が美点
高速での直進安定性の高さは、モデル3同様、相変わらずの美点だった。モデル3に比べ、重心が高くなり、車重も大幅に増えているが、欧州車のようにどっしりとしており、ハンドルに軽く手を添えるだけで、矢のように進んでいく。
EVなのでエンジン音がないのはもちろんだが、大きなボディにも関わらず、風切り音が全く聞こえなかった。21インチの伊ピレリの冬タイヤ(スタッドレスではない)を履いていたが、ロードノイズも良く抑えられている。疲労を蓄積させる音や振動はエンジン車に比べて明らかに少なかった。これを一度、体験してしまうと、エンジン車に戻れない人は多いだろう。
駿河湾沼津SAで新型急速充電器の工事
東京・用賀の東京ICから東名高速に乗り、御殿場から新東名に入る。最高速度120キロの区間だが、この程度の速度では非常に安定した走りだ。そのまま、駿河湾沼津SAまで一気に108キロを走った。到着は7時22分。ここでは15分ほど小休憩する。
駐車スペースで目に入ったのが、公共の急速充電施設を設置するイーモビリティーパワーが4台同時に充電できる急速充電器の設置工事をしていたことだ。これは、首都高の大黒PAにあるのと同様のタイプで、デザインからするとニチコン製だ。最高出力は150キロワット時で工事期間は3月末までとなっている。専用の充電設備があるテスラではあまり使う機会はないだろうが、日産の軽EVサクラ(航続距離180キロ)に乗る人には朗報だろう。
浜松SAの「外」にテスラ専用充電器
7時37分に駿河湾沼津SAを出発し、浜松SAを目指す。テスラはここに専用急速充電施設であるスーパーチャージャー(SC)を設置している。浜松SAには8時41分到着。用賀から浜松SAまでの走行距離は226キロだった。ただし、SA内の設置は国土交通省から許されておらず、そのため、スマートETCゲートを通り、SAの真裏にあるテスラのSCまで行かないといけない。これは、不便だ。ただ、SCとSA内の建物は階段を通じて直結している。
226キロの実走行距離に対し、テスラの液晶画面では、航続可能距離は356キロから23キロまで減っていた。表示されている航続可能距離333キロ(=356キロ-23キロ)に対し、実走行距離226キロの割合は68%程度となる。
浜松SAでは上島珈琲で朝食を取り、9時18分まで滞在した。ここのSCはスピードも速く、最初は我々のクルマしか充電していなかったので充電速度は135キロワット時だった。しかし、その後、モデルSが充電を始めたので、速度は84キロワット時まで落ちた。37分の充電で、航続可能距離は366キロまで回復した。
「航続可能距離」に対し実際に走れるのは75%
ここから、次の目的地である岐阜羽島スーパーチャージャーまで向かう。新東名から愛知県豊田市から東名高速、名神高速を経由し、岐阜羽島ICを降りて、すぐの畑の中にある巨大なショッピングセンターの片隅に、SCはある。到着は10時36分で、航続可能距離は188キロまで減っていた。実際の走行距離は134キロ。航続可能距離178キロ(=366キロ-188キロ)に対する割合は75%だった。浜松SAまでは最高速度120キロ区間が多く、高い速度で運転が続いたのに対し、豊田市を過ぎてからは最高速度が100キロに制限されたので、その分、電費が改善されたのだろう。実際、区間電費は浜松SCまでは1キロワット時=4.07キロに対し、岐阜羽島では、4.79キロまで改善している。
伊根町で「舟屋群」を見学
岐阜羽島を11時11分に出発、航続可能距離は429キロまで回復した。SCの充電速度は60キロワット時であった。再び名神道に入り、米原から北陸道に入る。途中、刀根PAで休憩した後、舞鶴若狭道、京都縦貫道を通り、与謝天橋立ICを降り、IC入口にあるローソンに着いたのが13時37分だった。
途中の舞鶴若狭道、京都縦貫道とも対面通行が多く、途中、追い越しのための短い2車線区間がある。モデルYはここで加速性能の良さを発揮した。トルクの大きいEVはアクセルを踏むだけですぐに加速するので、前を走るトラックや小型車を複数台同時に追い抜くことができた。これは、到着時間の短縮に大きく役立った。
岐阜羽島SCから、与謝天橋立ICのローソンまでの走行距離は207キロ、航続可能距離は429キロから169キロに減っていた。この区間の電費はよく、1キロワット時=5.7キロまで伸びた。ここから、天橋立を横に見ながら、途中の岩ケ鼻で小休止した後、伊根町に到着したのが15時13分。24キロの実走行に対し、航続可能距離は25キロ(=169キロ-144キロ)だった。一般道の低い速度域では、実走行と航続可能距離はほぼ一致(24キロに対し25キロ)する。高台にある「伊根町舟屋群展望所」で舟屋を見た後、「伊根湾めぐり遊覧船乗り場」から遊覧船に乗り、海から舟屋群を見た。16時7分に伊根町を出発し、京都縦貫道経由で京都市内のオートバックス内の駐車場に設置されている四条SCに到着したのが、18時17分。走行距離は121キロ、航続可能距離は144キロから8キロにまで減っていた。
722キロ走り、電費は1キロワット時=5キロ
ここで、50分の充電で充電量を2%(8キロ)から90%(414キロ)まで回復させた。ここのSCの出力は最初は110キロワット時で、最後は38キロワット時まで落ちた。
その後、近くの日本料理店で食事しホテルに到着、1日目が終了した。総走行距離は722キロに達した。消費した電力は144キロワット時、平均電費は1キロワット時=5.01キロだった。
(稲留正英・編集部)