転機を迎えた中小企業支援策 代謝恐れず「変革企業」重視を 後藤康雄
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日本経済の処方箋/8 日本経済の再生には、中小企業の活性化が欠かせない。一律支援をやめると同時に、直接金融化などで経営者がリスクを取れる環境の整備が必要だ。
中小企業部門の停滞が続いている。就業者の約7割、付加価値の約半分を占める中小企業部門の活性化なくして、日本経済の再生はない。図は、財務省「法人企業統計」を用いて、大企業と中小企業の付加価値の伸びの格差を示したものである。大企業の付加価値前年比から中小企業の値を差し引きし、トレンドを抽出した。総額、1社当たり金額のいずれも長らくプラスの領域にある。これは、大企業の付加価値の伸びが中小企業より高い傾向が続いていることを意味している。さらにその差は長期的に拡大している。以下、日本経済再生に向けた中小企業部門のあり方について考える。
成長抑えた保護政策
全国に300万社以上ある個々の中小企業は精いっぱいの経営努力を続けている。にもかかわらず停滞が続くのは、政策や経済構造といった中小企業経営を取り巻く環境要素が大きいと考えられる。その一つは中小企業政策である。中小企業を弱者とみなし、金融や税制等による広範な保護的支援を戦後長らく行ってきた。
これは大きく二つのルートを通じて中小企業の成長を抑える方向に働く。一つは、事業規模が拡大すると支援対象からはずれるため、成長意欲に水を差す効果である。もう一つは、度重なる大規模な資金繰り支援による新陳代謝の停滞である。コロナ禍でも、実質無利子・無担保のいわゆる「ゼロゼロ融資」が中小企業を強力に支えた。緊急対応として他の選択肢はなかったろうが、長期的な競争力の低下という副作用は覚悟せねばならない。
中小企業の成長を妨げてきたもう一つの環境要因が、失敗への許容度が低い国全体の構造である。そこには上記の中小企業政策や、歴史、法制度、国民性などさまざまな要素が絡む。特に経済の観点からは、間接金融を中心とする日本の金融システムの存在が大きい。資金の貸手にとってもっとも重要なのは滞りない返済である。借り手が新たなチャレンジに失敗し、返済不能になった場合、貸手の損失は大きい。したがって、倒産履歴などの信用情報に敏感になるし、担保や個人保証で損失を抑える。大企業と異なり直接金融に頼りにくい中小企業にとって、失敗が許されず、大胆な挑戦をしづらい金融システムは、成長の余地を狭める。
長い歴史を経て形作られた政策スタイルや経済構造の変革は容易でないが、手をこまぬいていてはジリ貧の道をたどるばかりである。ここでは、政策面、構造面のそれぞれについて今後望まれる方向を考える。
政策に関しては大きく3点ある。一つめは、一律的な支援から、成長力を持つ事業者の育成への軸足のシフトである。日本の中小企業支援は、資本金や従業員数に基づく一律の基準で中小企業を定義し、長年それらを幅広く保護・支援してきた。しかし、1990年代ごろからは徐々に成長志向にかじが切られ、具体策も講じられつつある。コロナ禍においても、事業変革を促す事業再構築補助金が導入され、令和3(2021)年度補正と令和4(22)年度予備費の合計で7000億円以上もの予算を計上した。今後こうした成長・変革路線を一段と強めていくことが望まれる。
退出者を支援
このような政策のシフトは、おそらく不可避的に中小企業部門の新陳代謝を伴う。望まれる二つめは、市…
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週刊エコノミスト
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