ソフトバンクグループの申告漏れ“370億円”は費用? 資産?(編集部)
「ソフトバンクグループ(G)だからな……」
1月25日付『日本経済新聞』の1面記事に、税理士業界関係者や企業財務部門の注目が集まった。
「M&A税務 370億円申告漏れ」──。ソフトバンクGが東京国税局の税務調査を受け、2021年3月期までの2年間で、約370億円の申告漏れを指摘されたという内容だ。傘下の米携帯通信スプリントの合併に絡む取引費用が過大に計上されていたという。
費用か、資産か
ソフトバンクGは過去にも組織再編に絡み、巨額の欠損金(赤字)を発生させ、税務上の赤字にすることで、納税額をおさえるなど、「アグレッシブなタックスプランで知られる日本有数の企業。税務当局としては追随しようとする他社をけん制する意味合いもあるのではないか」(税理士)という見方もある。
今回のソフトバンクGの問題は、M&A(企業の合併・買収)をめぐって、税務当局側の見解が異なることからきているようだ。前出の税理士によると、焦点となったのは、「M&Aに関する支出が、『費用』か『資産』かの判断にかかわるものだろう」と話す。
ソフトバンクGは20年4月、傘下にあったスプリントとTモバイルUSの合併に伴う取引で、発生したデューデリジェンス(資産査定)などを雑損失(費用)として計上、これに対して国税側は「株式の取得価格」として「資産」計上すべきと指摘したようだ。
M&Aを検討するにあたり企業は通常、対象企業のデューデリジェンスを実施する。ここでは監査法人や法律事務所など多数の専門家を使うことから費用が発生する。「デューデリジェンスの深さや範囲の広さにもよるが、グローバルな大型M&A案件となると、費用が数十億円単位になることも珍しくない」(公認会計士)という。
企業としては、このデューデリジェンスにかかった支出を「費用」として計上できれば、短期的に利益を減らすことができ、節税のメリットを享受できる。逆に資産として取得価格に含めると、その株式を売却するまで税務上の損金とはならず、資金を寝かせることになってしまう。
ここに両者の見解の相違があった模様だが、結果的には、税務当局の指摘通りデューデリジェンスにかかった支出は費用ではなく、資産として取得価格に含める格好になったとみられる。
厳しい財政事情
ソフトバンクGは1月24日、「2020年3月期と2021年3月期にかかる税務調査の結果について」として、「当社は、法人所得で約370億円の修正申告を行いました。これは、経費計上タイミングなどの見解の相違によるものです。従って、仮装、隠蔽(いんぺい)に課せられる重加算税の対象となる修正はありません」とコメントを発表している。
近年は、企業グループ内の再編時に、「組織再編税制」を租税回避の手段として乱用する行為に対しても、税務当局は厳しい視線を送る。「財政事情が厳しくなり、各年で取れるところからしっかり税金を徴収しようとする税務当局の強い意志を感じる」(税理士)
タクトコンサルティングの遠藤純一氏は「日本企業のM&Aが増える中、関連する費用をめぐり企業と税務当局の見解が違ってくるケースは、今後も増える可能性がある。組織再編を巡っても、過度な節税対策とみなされる行為には、税務当局は厳しい態度で臨むだろう」と指摘する。
(編集部)
週刊エコノミスト2023年2月21日号掲載
税理士・会計士 税の攻防 ソフトバンクグループ 370億円申告漏れ=編集部