経済・企業

ボルボ・カー・ジャパン社長「夏以降に小型SUVを投入、日本市場での電動化を加速する」/上(編集部)

「今年夏以降に小型SUVのEVを日本で発売する」とボルボ・カー・ジャパンのマーティン・パーソン社長
「今年夏以降に小型SUVのEVを日本で発売する」とボルボ・カー・ジャパンのマーティン・パーソン社長

 スウェーデンの自動車メーカー、ボルボ・カーズが日本市場において電気自動車(EV)で存在感を高めている。今年は都市部でも乗りやすい小型スポーツ用多目的車(SUV)を年後半に発売し、攻勢を掛ける計画だ。同社の電動化戦略を日本法人ボルボ・カー・ジャパンのマーティン・パーソン社長に聞いた(聞き手=稲留正英・編集部)

―― まず、ボルボのグローバルな電動化戦略について。

■ボルボは2030年までにすべての新車販売を100%BEV(バッテリーでのみ駆動するEV)にするのがカンパニーゴール。目標がはっきり決まっているのは、私はいいことだと思う。よいプレッシャーになる。日本市場はちょっと電動化が遅れているから、これはチャレンジだ。

―― 昨年の世界市場と日本市場における実績は。

■ボルボの2022年のグローバルの販売台数は61万5000台と、21年に比べ12%減少した。しかし、BEVの販売台数は6万7000台と2.6倍になった。その結果、全販売台数に占めるBEVの割合は21年の4%から22年は11%に増えた。昨年12月にこの比率は20%、今年1月は16%となった。

本社に「日本の電動化は加速する」をアピール

 一方、日本市場の昨年の販売台数は3%減の1万6116台だった。日本でも世界と同様、半導体不足の影響があったが、本社が優先して日本に車を回してくれた。日本は昨年、ボルボにとり中国、米国、スウェーデン、英国、ドイツに次ぐ世界6位のマーケットとなった。イタリア、ベルギー、フランスなど他の大きな市場があるので、他の自動車メーカーでは普通、日本市場は9位か10位のことが多い。だから、ボルボ・カー・ジャパンとしては、ポテンシャルを最大限発揮したと感じている。日本の輸入車市場全体が22年は10%縮小する中で、我々は3%減だったので、シェアは21年の4.8%から22年は5.2%に上がっている。

―― なぜ、日本市場でこれだけ健闘したのか。

■一つは我々が、本社に「日本はよいマーケットなのでぜひ優先してほしい」と一生懸命アピールしたこと。今までは、日本からは、「電気自動車に保守的でフィットしない」とかそういうシグナルを送っていた。でも、それをやめて、「日本でBEVでチャレンジしたい」と訴えた。もう一つは、競争力のある商品を持っていたことだ。

―― 確かに世界的に見ると、日本はBEVにすごく億劫に見える。それなのになぜ、日本でBEVを売りたいと思ったのか。

■日本はBEVを受け入れるのにちょっと時間が掛かるが、一回、シフトすると、すごいスピードで普及が進むと見ているからだ。これは、我々がBEVの「C40リチャージ」を21年11月に日本に導入した時から申し上げている。電気自動車は、普及率が5%を超えると指数関数的に普及が拡大する(5%のピボットポイント)と言われている。ボルボは日本市場で22年のBEVの販売台数は925台、全体の5.7%となった。

 日本のプレミアムカー(高級車)市場におけるBEVの割合は、2020年0.5%、21年は2.4%だったが、22年は4.9%に倍増した。特に昨年は9月が4.4%、10月が7.8%、11月が8.2%、12月が8.1%となった。日本市場はこれからもっと普及がスピードアップすると思う。

サステナビリティに関心が高い富裕層

―― 高級車の市場は富裕層や知識層が多いので、電気自動車に関心が高いのか。

■その通り。もちろん、一つは、今はまだバッテリーのコストが高いので、車両価格も高く、必然的に経済力がある顧客が購入する。もう一つは、我々の顧客は環境やサステナビリティ(社会や経済の持続可能性)に関心が高い。だから、電動化の話をすると、顧客に響く。

―― ボルボの顧客の世帯年収はどれくらいか。

■1500万円から1700万円くらいだ。

―― 企業経営者とか医師とか。

■医師は多い。世帯年収で言うと、メルセデスもBMWもボルボもほぼ変わらない。

―― サステナビリティに関心がある層にアピールするには、電気自動車が不可欠というわけか。

■BEVのラインアップは、21年はC40リチャージの1車種、22年はXC40リチャージと計2車種しかないとまだ非常に限られている。しかし、これだけでは何にもならないから、プラグインハイブリッド(PHV)に力を入れている。要するに、顧客はPHVに乗り、電気の走りを体験したら、次のステップは必ずBEVを購入すると思う。

 昨年の日本の高級車市場において、ボルボは925台のBEVを販売し、高級BEV市場のシェアは7.3%とテスラ(同46%)、BMW(17%)、メルセデスベンツ(16%)に次ぐ4位だった。だが、BEVとPHVの合計だと3221台、シェアは第3位の16%で、2位のBMW(同17%)とほぼ変わらなくなる。

―― PHVを日本に導入したのはいつから。

■16年1月のXC90リチャージPHVからだ。

―― PHVは比較的早く導入していた。

■我々はチャンスだと思っていた。顧客はBEVまでのステップはちょっと抵抗があったかもしれない。だから、一昨年、昨年はPHVにかなり力を入れて販売した。どんどん増やした感じだ。顧客にPHVの話をすると、電気の良いところと、ガソリンの良いところの両方が利用できるから、割合と簡単に移っていただけた。ここで顧客基盤を作ると、次のステップはBEVになる。

「今年の日本の高級車市場ではEVの普及が加速する」
「今年の日本の高級車市場ではEVの普及が加速する」

小型SUVを今年夏以降に投入

―― 今年のBEVの販売戦略は。

■まず、C40とXC40の2車種がフルイヤーで販売される。あと、新しいBEVを一つ導入する。

―― 昨年11月に、スウェーデン本国で発表したフラッグシップSUV「EX90」か。

■いや、これではない。欧州では既に発売されているが、日本は2024年だ。

―― それでは、それ以外のものか。

■そうだ、小さめのSUVとなる。要するに、日本にサイズがフィットする車だ。

―― C40やXC40と同じくらい?

■いや、もう少し小さい。

―― 日本の市場で言うと、どれくらいのサイズに。

■アウディのQ2(全長4200ミリ、全幅1795ミリ、全高1520ミリ)くらいのサイズ、いわゆるBセグメントだ。

―― 狭い道が多い日本ではかなり戦略的な車に見える。

■そう、これはすごく大事な車だ。当然、日本の市場は道が狭いし、駐車場の制約があるから、小さめの車は可能性がある。だから、日本ではEX90が最初ではなく、この小さめの車を最初に導入する。

―― 発売はいつくらいになる。

■今年のセカンドハーフになる。夏の後になる。

―― 価格帯は?

■まだ、何も決まっていない。

―― しかし、当然、C40やXC40よりも安くなる?

■まあ、そうだと思う。

―― XC40で当初価格が579万円からと、ボルボブランドにしては相当、戦略的な値付けにした印象がある。

■ポイントは「2030年までに新車販売を全部BEVにする」というゴールが決まっているから、ここで、電動化をスピードアップしないといけない。

―― 値段を考えると、新しいコンパクトSUVは、今までのプレミアム市場の顧客だけでなく、もうちょっと若い層も対象になるのではないか。

■おっしゃる通り。今のボルボの顧客の平均年齢層は50代。ターゲット顧客は、もう少し若くなると思う。

―― 40代とか、もしかして、ローンを組んで30代も。

■そうだ。それは本当に我々のターゲットにしていこうと。

充電は公共インフラ利用の利便性向上に注力

―― 一方で、充電インフラについては、ボルボではどのように考えているのか。例えば、他の輸入ブランドは、ディーラーに150キロワット時級の超高速充電器を整備している。

■ボルボはボルボブランドの名前が入っている自前の充電網は作る気はない。もちろん、全国のボルボディーラー92拠点のうち72拠点に直流の急速充電器、また、交流の普通充電器は全拠点に設置されている。急速充電器はほとんどが50キロワット時の速さだ。

―― ボルボのBEVはどれくらいの急速充電に対応しているのか。

■150キロワット時だ。ボルボは基本的にディーラーに充電インフラは持っている。しかし、それ以外は、公共の充電施設を利用することになる。

―― 最近、新東名の駿河湾沼津サービスエリア(SA)を利用した時に、同時に4台が利用できる急速充電器の工事が進んでいた。

■今後、公共の急速充電器が増えてくると思うので、そんなに心配していない。ここ数カ月でもファミリーマートやイオンなどが急速充電器の整備を進める動きが出ている。ビジネスとして、充電インフラに進出している人たちが出てきていることをすごく感じる。また、日本人はそんなに距離を走らないので、携帯のように毎日充電する必要はない。ここはマインドセットだと思う。

―― ボルボディーラーの急速充電器を50キロワット時から150キロワット時のものに更新する予定はないのか。

■そういうものを付けると、日本の法律ではキュービクル(高圧受電設備)も変えないといけないので、2500万円とか3000万円とかかなりの投資になる。独立資本のディーラーの負担を考えると、あまりやりすぎるのはよくない。だから、現状は50キロワット時で十分だと考えている。でも、いろんなパートナーシップとか、顧客が公共充電インフラにアクセスしやすくなるように、利便性を上げる方には投資をしていく。例えば、アプリ上での充電スポットの検索や予約、その後の決済などのイメージだ。

(稲留正英・編集部)

>>連載(下)はこちら

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事