経済・企業

コロナ後見据えた大鉄道網 時代に応えるリノベーション 梅原淳

 新型コロナウイルス感染症の拡大がひとまず落ち着き、鉄道にも客足が戻りつつある。大都市の人口は長期的には減少すると見込まれるものの、鉄道においては現在の混雑を解決する必要がある。また、バリアフリー化など時代の要請に即した姿に変えなくてはならない。

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 コロナ禍に見舞われた3年近い月日の間にも大都市の鉄道網の整備、リノベーションは続き、いくつかはこの春にもお目見えとなる。その最大のものの一つは3月18日に開通となる東急電鉄の東急新横浜線日吉─新横浜間、相模鉄道の相鉄新横浜線羽沢横浜国大─新横浜間だ(図1①)。新横浜駅に両社の電車が初めて到達するとともに、相鉄線と東急線、そして東急線を介して東京メトロ副都心線の東武東上線方面、東京メトロ南北線の埼玉高速鉄道線方面、都営三田線方面との間を結ぶ大規模な相互直通運転が開始される。

 建設を担当した鉄道建設・運輸施設整備支援機構は、今回開業となる区間の1日平均の利用者数を2025年度で約26万人と見込む。相鉄の1日平均の利用者数は約64万人(19年度)であるから、いかに多いかが分かる。東京都心への新たなルートが誕生するとあって、相鉄沿線では宅地の開発が急ピッチで進む。相鉄ホールディングスの不動産セグメントの売り上げも好調で、22年10~12月期の営業収益は前年同期比16.7%増の453億円であった。

新線・延伸が相次ぐ

JR東海道線支線(大阪市)を走る特急「はるか」
JR東海道線支線(大阪市)を走る特急「はるか」

 関西圏では新大阪駅と大阪環状線とを結ぶJR西日本東海道線支線の一部区間がルート変更のうえ、地下に移設され、3月18日から大阪駅(うめきたエリア)へ乗り入れる(図2①)。関西国際空港アクセス特急の「はるか」や紀勢線方面の「くろしお」は従来大阪駅を素通りしていたが、今回のルート変更によって関西最大のターミナルを発着することとなり、JR西日本は利用者の大幅な増加を見込んでいる。

 なお、うめきたエリアとは大阪駅北東に広がる24ヘクタールもの大規模な都市整備事業区域で、もとにあったJRの貨物駅が移転したことで生み出された。

 建設中、計画中の新線はほかにもある。東京都内では東京駅と羽田空港新駅(仮称)とを結ぶJR東日本の羽田空港アクセス新線(図1②)が29年度中の開業を目指して工事中だ。また、東京メトロの南北線・白金高輪─品川間(図1③)、有楽町線・豊洲─住吉間(図1④)のともに延伸区間、事業者未定だが東急多摩川線の矢口渡駅と京急蒲田駅との間で新空港線(図1⑤)の建設が決まり、着工を待つばかりとなっている。

 関西圏では北大阪急行電鉄南北線の千里中央駅(大阪府豊中市)と箕面萱野駅(同府箕面市)との間(図2②)が24年春に開業の予定だ。大阪市内では、大阪駅(うめきたエリア)とJR難波駅・南海本線の新今宮駅とを結ぶ地下鉄なにわ筋線(図2③)が31年の開業を目指して21年に着工となった。

 ほかに阪急電鉄が計画中のなにわ筋連絡線(図2④)と新大阪連絡線(図2⑤)とが挙げられる。前者はなにわ筋線の大阪駅(うめきたエリア)と十三駅との間を、後者は十三駅と新大阪駅との間をそれぞれ結ぶ。

進む立体交差

 拠点駅のリノベーションも進められている。今年1月に人力での線路の移設作業が話題となったJR山手線の渋谷駅ではホームの拡幅が実施され、今後は国道246号を越える山手線、埼京線の高架橋の改良で道路幅が拡張されるという。今回のリノベーションは副都心である渋谷全体の都市再開発計画に組み込まれており、既に東急東横線渋谷駅は地下へと移設され、JR埼京線や東京メトロ銀座線のホームもより便利な場所へと配置換えされた。

 東京都内では京浜急行電鉄品川駅のリノベーションが間もなく本格化しそうだ。羽田空港発着便の増加やリニア中央新幹線の開業を見据え、京急品川駅はほぼ全面的に改築される。現在の狭いホーム2面に3本の線路から広々としたホーム2面に4本の線路へと一新され、併せて現在の高架からJR線と同一の高さの地平へと降ろされ、乗り換えしやすくなるという。同時に京浜急行電鉄では品川─新馬場間の連続立体交差事業にも着手され、踏切3カ所が姿を消す。

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 連続立体交差事業といえば、表のとおり、首都圏では10カ所、中京圏では2カ所、関西圏では6カ所の計18カ所で実施中だ。なかでも、京王電鉄京王線の笹塚─仙川間ではほぼすべてが開かずの踏切といわれる25カ所もの踏切が取り除かれるという巨大なプロジェクトである。

 大都市であるだけに連続立体交差事業では巨額の建設費が欠かせない。総工費の約90%は道路の改良という名目で沿線の自治体が負担する決まりだ。だが、あまりに費用がかさむと、京急大師線連続立体交差事業では計画が見直された。京急川崎─小島新田間のほぼ全線を地下化する当初計画は、沿線の川崎市では2230億円に上る建設費を負担できないと見直される。結局、804億円の建設費が見込まれた京急川崎─鈴木町間の事業が中止となった。

 大都市の駅ではホームドアやエレベーターなど、バリアフリー化が進められているが、なかなか完了しない。鉄道会社各社にとって巨額の事業費がネックとなっているからだ。国土交通省は使途を限定した鉄道駅バリアフリー料金制度を整備し、この春から多くの鉄道会社で導入となる。

 今回採用した鉄道会社は首都圏ではJR東日本、東武、西武、小田急、相鉄、東京メトロ、横浜高速鉄道の7社、中京圏ではJR東海、関西圏ではJR西日本、京阪、阪急、阪神、大阪メトロ、神戸電鉄、山陽、西日本鉄道の8社、合わせて16社だ。各社普通乗車券は10円程度、通勤定期は1カ月で数百円程度値上げとなる。

(梅原淳・鉄道ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2023年3月14日号掲載

再始動する鉄道 進む大鉄道網の整備 時代の要請に応える=梅原淳

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