教養・歴史書評

矛盾だらけの最高権力者、西太后の横顔と本音を暴露した回想記 加藤徹

 中国の権力者は、自分の腹の底を明かさない。臣民も外国人も、戦々恐々と権力者の顔色をうかがう。それが中国の帝王学だ。中国の権力者は、無愛想で傲慢に見える。

 とはいえ、権力者も人間だ。まれに、側近にだけ本音をもらすことはある。徳齢著、太田七郎・田中克己訳『西太后に侍して 紫禁城の二年間』(講談社学術文庫、1518円)は、清朝末期に最高権力者として君臨した西太后の横顔と本音を暴露した、貴重な回想記だ。

 西太后の評価は今も定まらない。私欲で国政を牛耳り中国を衰退させた悪女か。夫である皇帝の死後、国家を支えたけなげな未亡人か。ただ、たしかに史上まれな権力者だった。太平天国の乱、日清戦争、義和団事件。激動の中国に半世紀にわたり君臨し、一度も失脚しなかった。

 西太后は矛盾だらけだった。義和団事件までは外国人を憎んだ。日本を含む列強に敗北すると、一転して笑顔で列強の外交官夫人たちとの親睦につとめた。西太后は戊戌(ぼじゅつ)の政変で、光緒帝の改革をつぶした。その後、自分の手で清朝延命のため大胆な改革を推進した。矛盾だらけの彼女の本音は、どこにあるのか。中国人も外国人も注視した。

 本書の著者・徳齢は、外…

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週刊エコノミスト

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