化石燃料高騰で最高益のエクソン 脱炭素への投資も怠りなく 岩田太郎
脱炭素時代に皮肉にも石油メジャーが最高益を更新している。
1863年設立の巨大石油企業スタンダード・オイルが20世紀初頭に分割され、分社化されたモービルが合併吸収を重ねて1999年に創立されたエクソンモービル。長期保有向けの配当貴族銘柄として知られる。
ロシアのウクライナ侵攻などに伴う原油・天然ガス価格の高騰など、地政学的な要因で高収益が続く。さらに、中国のゼロコロナ政策終了により、同社製品に対する世界的な需要の回復を見込む。
2022年12月期の最終利益は前年比142%増の557億4000万ドル(約7兆3000億円)で、過去最高益を更新した。22年10~12月期の売上高が前年同期比44%増、調整後1株当たり利益(EPS)が同48%増だ。22年12月期末のキャッシュフローは768億ドル(10兆4000億円)、手元資金も潤沢である。株価は22年通年で80%上げている。
エクソンモービルは、使用できる資本を活用してどれだけ利益を生み出しているかを割り出す使用資本利益率(ROCE)において22年12月期は25%と、主要競合大手シェブロンの20%超などと比較しトップであった。同社は22年12月期~24年12月期の3年間で計500億ドルの自社株買いも発表しており、株主還元で業界をリードする業績をアピールしている。
CO₂回収プロジェクトも
また、さらに株主に報いるための年間90億ドルのコスト削減の取り組みの一環として、従来の複数事業部門を改編。資源開発・生産の上流部門、石油精製と化学を一本化した中流の製品ソリューションズ部門、さらに地球温暖化対策を手掛ける低炭素ビジネスの3主要部門に集約した上で、サプライチェーン(供給網)や原材料調達に関する意思決定も一元化した。複数部門が同じ取引先と別々に交渉する重複をなくし、価格交渉力を高める狙いがある。
エクソンモービルは22年12月期に原油の生産量を増やすための投資を前年比38%増加させた。南米ガイアナ沖や米パーミアン盆地など一部の主要資源地域では生産量が30%以上伸び、ロシアからの撤退で失われた生産量を相殺できた。
このように過去最高益を更新して絶好調のエクソンモービルだが、製品値上げによるガソリン・天然ガスなど光熱費高騰がインフレの素地になることから、批判が高まる。米ホワイトハウスは声明で、「米国民がこれほど高いガソリン代を払わせられているのに、エクソンモービルが過去最高益を出すなどとんでもない」と名指しで非難。また、欧州連合(EU)や英国からは13億ドルの超過利潤税(棚ぼた税)を課されているが、業績への影響は軽微にとどまる。
このような批判や、石油製品が引き起こす地球温暖化への懸念に対応すべく、エクソンモービルはクリーンエネルギーへの投資も怠らない。具体的には、年間最大200万トンの二酸化炭素(CO₂)が回収・貯留できるプロジェクトを推進。成功すれば、ガソリン車約70万台分の排出を電気自動車(EV)に置き換えることに相当するとの触れ込みで、大きな利益と成長性が期待できる。
同社は、各国のクリーンエネルギー目標達成の遅延が見込まれるなかで事業展開の見極めの姿勢に入っており、どちらに転んでも大丈夫な構造の確立を目指している。
(岩田太郎・在米ジャーナリスト)
週刊エコノミスト2023年3月21日号掲載
石油メジャー エクソンは手元資金10兆円 クリーンエネルギーに投資=岩田太郎