ジジイならではの味わいと使用者の哲学が色濃く出る台所という場所 美村里江
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料理が好きなので人の台所に興味がある。年代や性別をいろいろ考えても、オニイサンやオバサンより圧倒的に良い味わいを醸し出している『ジジイの台所(だいどこ)』(沢野ひとし著、集英社クリエイティブ、1760円)。
内容はイラストやレシピもところどころに入れつつ、あくまでジジイである自分の台所仕事について軽妙に記してある。読んでいると、台所は使用者の哲学が色濃く出る領域だなと感じる。特に、奈良のお寺の清められ整った「寡黙な厨房(ちゅうぼう)」に憧れ、若かりし日の旅の思い出の品も多い台所用品を片付けていく様子など、自問自答の連続だ。
昔ながらの「男子厨房に入らず」の掟(おきて)から、おたまの一つでも勝手に捨てようものなら「すぐさま包丁が飛んでくるか、離婚が待っている」という、本来の台所の主である奥方との攻防。台所へのそれぞれ精神性の違いも面白い。
レシピでは作り置きとして紹介された「酢ショウガ」が良かった。丁寧に洗ったショウガを皮ごと薄切りか千切りにして、酢に漬けるだけ。健康に良い成分ジンゲロールもさることながら、著者オススメのこれを刻み入れたギョウザは絶品だった。
前著『ジジイの片づけ』も面白い。家で家事をこなす男性は増えたが、こと高齢世代になるとまだ人口は少ないかもしれない。しかし、今しばらく続きそうな物価高騰の影響を考えると、確実に需要の増えていくジャンルではないだろうか。
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室内外のマスク着用について、自分で選択する時期に入った。舞台稽古(けいこ)中の私は、寒暖差や乾燥からの喉の保護も考え、もうしばらく外さない予定である。
マスクだけではなく、コロナ禍で在宅時間が増え、自らの生活実態と本当に必要な住まいを改めて考えた人は多かったのではないだろうか。『どんな いえに すみたい?』(文・ジョージ・メンドーサ、絵・ドリス・スーザン・スミス、訳・木坂涼、好学社、198…
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週刊エコノミスト
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