マキノ出版の倒産 総合週刊誌の『壮快』化で埋没したか 永江朗
健康雑誌の『壮快』などで知られるマキノ出版が、3月2日、東京地裁に民事再生法の適用を申請して、同日、保全・監督命令を受けた。帝国データバンクの「倒産・動向速報」によると、負債総額は約15億7200万円。
マキノ出版は1974年に牧野武朗(1923~2012年)が講談社と共同出資で創立したマイヘルス社が前身。牧野は講談社でコミック誌の『なかよし』『週刊少年マガジン』『少女フレンド』の創刊編集長を務め、こんにちのコミック文化とコミックビジネスの礎を築いた。原作者としての梶原一騎を見いだしたのも牧野だった。
牧野は『壮快』のほか、健康情報誌の『安心』や『ゆほびか』、商品情報誌の『特選街』などを次々と創刊。ムック『驚異のスパイラルテープ療法』(95年)、『巻けばやせる! ダイエットテープ』(96年)などもヒットさせた。健康情報誌のパイオニアであり健康ブームのけん引役だった。
「倒産・動向速報」によると、マキノ出版の2004年2月期の年売上高は約36億1800万円。しかし近年は急速に売り上げが落ち込み、22年2月期の年売上高は14億5600万円にまで減少していたという。『特選街』も21年に休刊し、インターネットの「特選街web」に移行している。
経営悪化の原因は主力雑誌の売り上げの落ち込み。インターネットの普及など社会のデジタル化や購読者の高齢化が背景にあるといわれる。コロナ禍のなか高齢者が外出を控えたことや、近年、書店が減っていることも影響したと思われる。さらにここへきて、洋紙価格の高騰などでコストが増えた。
筆者は、一般の総合週刊誌が頻繁に高齢者向けの特集を組むようになった影響も大きいのではないかと推測している。たとえば牧野の古巣である講談社の『週刊現代』を見ると、毎号のように高齢者向けの健康や若返り、お金の特集が組まれている。マキノ出版が世の中の流れに取り残されたというよりも、雑誌界全体が『壮快』『安心』化してきた結果、本家本元のマキノ出版が埋没してしまったのではないだろうか。
同社の雑誌の認知度は高い。ぜひとも再生を成功させてほしい。
この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。
週刊エコノミスト2023年4月4日号掲載
永江朗の出版業界事情 健康雑誌の老舗・マキノ出版が倒産