州境の小さな町の脱線事故が政治ショーに 吉村亮太
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オハイオとペンシルベニアの州境に近いイーストパレスティーンの町で2月3日、150両編成(全長3キロ弱)の貨物列車の3分の1が脱線して火災が発生した。一部の貨車には石油製品が積載され、爆発などの2次災害を避けるべく意図的にこれらを燃焼させたため、事故現場には数日間にわたり黒煙が立ち上り、毒性のあるガスが放出された。短期間とはいえ、沿線住民は避難生活を強いられた。
米環境保護局によれば、環境基準値を超える有害物質は大気中や水道水から検出されていない。しかし、事故現場周辺に異臭が漂ったり、近隣の河川で大量の魚の死骸が発見されたりした。肌荒れ、吐き気、めまいを訴える人もいるという。錯綜(さくそう)する情報に住民は不安を隠せない。安心材料を提供できない鉄道会社や環境当局に住民が怒りをぶつける集会の様子がテレビで繰り返し流されていた。
速報によれば、脱線の直接の原因は貨車の車軸を支えるベアリングの不具合らしい。より少ない人員でより長い編成を運行している鉄道事業者の行き過ぎた合理化や、安全対策の遅れが遠因になったと指摘する声も出ている。
批判強めるトランプ氏
日本では列車が脱線事故を起こせば大きなニュースになるが、米国では不幸にも人身事故に発展するか、今回のような大きな環境汚染の懸念でもない限り、ローカルニュースにとどまる。政府が統計を公表するようになった1975年の年間6000件強という数字は問題外としても、半世紀近くが経過してもなお、毎年1000件前後の脱線事故が発生しているのがこの国の実態だ。
「良い危機を無駄にするな」という英国のチャーチル元首相の言葉がある。第二次世界大戦は多くの犠牲を伴ったが、国際連合を誕生させるきっかけとなったことを指すとのこと。残念ながら、現在のワシントンDCではこのような前向きの文脈ではなく、「使えるものなら他人の不幸でも政治利用してやれ」という意味で用い…
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週刊エコノミスト
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