東証が60年ぶりの大改革に本腰 経過措置の期限明示(編集部)
かつて時価総額で世界2位だった東証だが、5位まで順位を落としている。
東京証券取引所は昨年4月4日、それまでの5市場(東証1部、2部、マザーズ、ジャスダックスタンダード、ジャスダックグロース)を、「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に再編した。東証2部を開設した1961年以来、実に約60年ぶりとなる大規模な改革に踏み切った。しかし、旧東証1部からプライム市場へそのまま移行する銘柄も多く、「骨抜き」「看板の掛け替え」といった批判が付きまとっていた。
東証が市場を再編した狙いは大きく二つある。一つは、2013年の東証と大阪証券取引所の統合により、五つに増えてしまった市場を三つに整理し、その性格をはっきりさせることだ。二つ目は、各市場に厳しい「上場維持基準」を設け、企業に持続的な成長と中長期的な企業価値向上への動機を与えること。各市場の上場維持基準に満たない企業はふるい落とすこともいとわない。
東証が大改革に踏み切ったのは、日本株市場の地盤沈下が止まらないためだ。東証はかつて時価総額で米ニューヨーク証券取引所に次ぐ2位の規模だったが、日本経済の低迷とともに上場企業の成長性や収益性も停滞。世界取引所連盟によると、東証(日本取引所グループ)の昨年末の株式時価総額は5.4兆ドルと、トップのニューヨーク証取(24.1兆ドル)とは大差で、中国・上海証取にも抜かれて世界5位へと順位を落とす。
「市場規律優先」へ転換
東証はそこで、海外の機関投資家の投資対象となる規模で、高いガバナンス水準を備える「プライム」▽主に国内投資家向けの投資規模、ガバナンス水準を備え、持続的な成長を目指す「スタンダード」▽ベンチャー企業など飛躍を目指す「グロース」──とコンセプトを明確化。数値による上場維持基準だけでなく、市場ごとに求められるガバナンス(企業統治の指針)の水準も示し(表)、投資家にとっての利便性向上も図った。
だが、再編に伴う混乱を避けるため、東証は新市場区分の上場維持基準に満たなくとも、暫定的に上場を認める「経過措置」を導入。昨年4月4日の移行日時点で、旧東証1部2177社のうち1839社がプライム市場へ移行し、このうち295社は経過措置を適用して上場を継続することに。経過措置の期限も「当分の間」として明確に定まっていない状態だった。
そうした中で、東証が今年1月末、経過措置を25年3月以降に順次終了する方針を示した。一部の市場関係者の予想よりも早まったスケジュールで、経過措置の適用企業は今後、維持基準の達成が見込めないまま上場を続ければ上場廃止もありうる。大和総研の神尾篤史主任研究員は「メディアや投資家から『再編でもあまり変わっていない』『改革色が出ていない』との指摘が強く、再編の実効性の担保に動いたのでは」と語る。
日本証券経済研究所の明田雅昭特任リサーチ・フェローは「上場企業への対応が甘いと指摘されていた東証が、市場規律優先へと方針転換した証しかもしれない」と指摘する。
(編集部)
週刊エコノミスト2023年3月28日号掲載
日本株の大逆襲 60年ぶり大改革の東証再編 「骨抜き」批判についに本腰=編集部