ベルギーに来たアフリカ難民の少女と少年を通して弱者の現実の過酷さを描くダルデンヌ兄弟 勝田友巳
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映画 トリとロキタ
ジャン=ピエールとリュックのダルデンヌ兄弟監督は、もっぱら社会の片隅で不当に苦しんだり闘ったりしている人たちを描いてきた。そしてしばしば、主人公は子どもたちだ。大人の都合による不公正や理不尽さのしわ寄せが、最も及ぶ存在だからだろう。主人公2人の名前を並べたシンプルなタイトルのこの作品では、アフリカからベルギーに来た難民の子どもたちに目を向けた。
ロキタは10代後半の少女、トリはさらに年下の少年で、姉弟と称しているがそれはウソ。アフリカからの船の中で出会って以来ずっと一緒、頼れるのはお互いだけなのだ。トリは早々に滞在ビザを取得して学校に通っているのに、ロキタにはなかなか許可が出ず焦っている。
彼らを取り巻く環境は過酷だ。表向き、レストランで歌って小銭を稼いでいるが、ひそかに麻薬密売人の下で配達係として働いている。渡航の仲介業者に支払いを求められ、仕送りしている本国の親からも理不尽にせびられる。警察の目を恐れ、弱い立場につけいる密売人の性的虐待にも耐えなければならない。ロキタは偽造ビザを手に入れて介護の学校に通いたいのに、なかなかお金がたまらない。やがて大麻栽培工場の管理の仕事をあてがわれて、ロキタは1人山中に連れて行かれた。隔離されて軟禁状態、電話もできなくなって不安は募るばかり。
これまでのダルデンヌ兄弟の作品と同様、カメラは主人公にピッタリと寄り添って、その息づかいまで写し取る。細部の描写が精密で、リアリティーはドキュメンタリーのよう。今回は大規模な大麻密造…
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週刊エコノミスト
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