教養・歴史アートな時間

抵抗か 恋の駆け引きか ルーヴルから選りすぐり73点 石川健次

ジャン=オノレ・フラゴナール《かんぬき》1777~78年ごろパリ、ルーヴル美術館©RMN-Grand Palais(musēe du Louvre)/Michel Urtado/ distributed by AMF-DNP artcom
ジャン=オノレ・フラゴナール《かんぬき》1777~78年ごろパリ、ルーヴル美術館©RMN-Grand Palais(musēe du Louvre)/Michel Urtado/ distributed by AMF-DNP artcom

美術 ルーヴル美術館展 愛を描く

 暗がりのなか、もつれあう男女……。まるでスポットライトに照らされているかのよう。図版に挙げた作品だ。でも、そこは劇場の舞台ではない。寝室だ。よく見ると、たくましい男性の右手がのびる先には、かんぬきが……。

 人間の根源的な感情である愛は、古代以来、西洋美術の根幹をなすテーマのひとつであり続けている。世界最大級の美術館として有名なパリのルーヴル美術館が所蔵する膨大なコレクションから選りすぐられた73点の名画を通して、男女の愛や神が人間にそそぐ、あるいは親が子に寄せる無償の愛など、西洋絵画におけるさまざまな愛の表現をひもとく。

 図録の言葉を引用しつつ本展の狙いに触れると、このように言えるだろう。人類の罪をあがなうため十字架にかけられたイエス・キリストは、人間に対する神の愛に貫かれていただろう。17世紀フランスの画家で整然とした構図、明確な輪郭線や配色が特徴の古典主義絵画で知られるウスターシュ・ル・シュウールの《キリストの十字架降架》は、磔刑(たっけい)の直後、遺骸を十字架から降ろす場面を描く。

 イエスの足元に口づけするマグダラのマリアなど遺骸を囲む人々の抑制された感情表現、青と茶のコントラストを基調とする落ち着いた色調に深い悲嘆がにじむ。

 俗な私が目を奪われた筆頭は、冒頭でも触れたジャン=オノレ・フラゴナールの《かんぬき》だ。フランス革命以前、絶対王政下の18世紀フランスで隆盛を誇った優美で甘美なロココ美術を代表するフラゴナールの「最も有名な作品にして…

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