経済・企業 米国発金融危機再来
対岸の火事ではない欧米銀破綻 債券運用への依存体質は邦銀も同じ(編集部)
「パリバショックにならなければいいが……」
米国発の銀行破綻が大西洋を越えて、欧州に伝播(でんぱ)する姿を前に、あるメガバンク幹部が表情を曇らせる。
パリバショックとは、2008年9月の米大手投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻する約1年前、フランスの大手金融BNPパリバ傘下のファンドが投資家の解約を凍結し、市場でサブプライムローン(低所得者向け住宅融資)問題が火を噴くきっかけになったイベントを指す。つまり、このメガバンク幹部は、今回の欧米金融機関の破綻が、グローバルな経済危機に発展する予兆ではないかと、警戒しているのである。
米国のシリコンバレーバンクやシグネチャーバンク、シルバーゲートバンクに続き、経営危機に陥っていたスイスの金融大手クレディ・スイスを、同業のUBSが買収することが3月19日、決まった。
クレディ・スイスは、元幹部の行動監視など不祥事が相次ぐ一方で、破綻した米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメント関連で多額の損失を計上、経営とリスク管理の問題が指摘され、水面下で顧客離れが進んでいた。
シリコンバレーバンクの破綻を契機に、投資家のリスク回避姿勢が強まり、クレディ・スイスの株価が急落。スイス国立銀行(中央銀行)が資金支援を表明するなど、異例の対応をとっていたが、預金流出という事態に事実上、金融当局が仲介する形で、UBSへの売却が決まった。危機が表面化してから約1週間という超スピード決着である。米国発の金融危機が瞬時に欧州まで広がり、大手金融の一角が破綻した事実は重い。
リーマンの教訓
東京女子大学の長谷川克之特任教授は「現在進行形の金融危機は、長期に及んだ金融緩和局面で蓄積したゆがみが歴史的ペースでの金融引き締めによって炙(あぶ)り出されていることに起因する」とし、次のように解説する。
「破綻したシリコンバレーバンク、シグネチャーバンク、シルバーゲートバンクは、いずれもテクノロジーバブルの崩壊と関連付けられる。シリコンバレーバンクはシリコンバレーのベンチャー企業のおおむね過半と取引がある銀行であり、ベンチャー企業の資金調達環境の悪化が預金減少の底流にある。シグネチャーバンク、シルバーゲートバンクは暗号資産(仮想通貨)に特化、あるいは中心の銀行であり、その破綻の背景には暗号資産取引業者FTXの破綻に象徴される業界の経営環境悪化があるものと考えられる」
リーマン・ショック直後、「日本の金融機関はサブプライムローンやその証券化商品とはほぼ無関係で、金融システムに何の問題もない」と、その影響を軽視。当時の閣僚の一人は、「蜂に刺された程度」と表現したほどだ。しかし、「現実には欧米需要が蒸発し、実態経済に最大級の悪影響を受けた。リーマンの教訓を今こそ、生かす時だ」(証券エコノミスト)。
長谷川氏は「日本としては、米銀の日本化(預貸率の低下、預証率の増加)が今回の危機につながっているだけに、経済停滞長期化の下で、市場ビジネス(債券運用)に依存してきた元祖日本の金融モデルのリスクを再点検する必要がある」と指摘する。
(編集部)
週刊エコノミスト2023年4月4日号掲載
米国発金融危機 UBSがクレディ・スイスを買収 債券運用に依存する邦銀の点検を=編集部