防衛費増額の国会論戦が空洞化 「手の内明かさない」首相の逃避 松尾良
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昨年暮れ、政府・与党がまとめた防衛財源としての増税方針は、やや曖昧なものだった。
対象となる税ははっきりしている。法人税、復興特別所得税、たばこ税だ。ただし「適切な時期」からという留保がついていた。2024年以降、防衛関連予算を国内総生産(GDP)比2%へ倍増する27年度までのどこか、としか分からない。
増税論議を今春の統一地方選に影響させたくない。自民党の安倍派などの反対派をなだめる時間もほしい。増税時期について岸田政権が言葉を濁したのは、そんな事情からだった。
負担を巡る言葉遊び
年が明けて、防衛費「倍増」に向けた1年目となる23年度予算案が国会で審議されたが、岸田文雄首相の答弁はお粗末の一言だった。戦後の防衛政策の歴史的転換と、それに伴うカネの話であるにもかかわらず、だ。
「現下の家計の負担増にはならない」。復興特別所得税についての釈明は何とも苦しかった。この税は、本来の所得税に2.1%を上乗せし、東日本大震災からの復興財源に充てている。その税率を1%下げて、その分を新税として防衛費に回す。期限は延長し、復興費の総額が減らないようにするという。
確かに、税率は計2.1%のままなので「現下の」家計の負担は変わらない。だが、税負担の期間が延びる分、将来的には増税となることは明らかだった。当然「負担増をごまかしている」と批判を浴びた。そもそも震災復興を理由として創設した特別税を、いきなり安全保障に転用するのは「だまし討ち」に近い。
増税という強い表現を避けたい首相は「税制措置での協力をお願いする」と不明瞭な答弁を繰り返した。負担増の印象を薄めようとする不毛な努力は、1月の施政方針演説で自らが約束した「正々堂々議論」する姿勢とはかけ離れていた。
そうして集める巨額のカネの使い道も問われた。だが、GDP比2%目標が「数字ありき」なのではないか、必要な予算項目の積み上げが精査されていないのではないか、という疑いは一向に解消されていない。
予算の妥当性を説明できていない典型例が、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」購入を巡るやり取りだ。1月30日の衆院予算委員会で、立憲民主党の岡田克也幹事長から「5年間で何発買うのか?」と質問された際、首相の返答はにべもなかった。「詳細を明らかにすることは、安全保障上適切ではない」
ところがその後、購入元である米国そのものが、調達内容や性能を議会に報告していることが判明した。首相は軌道修正を余儀なくされ、ようやく「400発」と明かしたのは、予算案が衆院を通過する前日の2月27日だった。7兆円近い23年度の防衛費のうち、トマホークの取得経費は約2113億円。この件だけで1カ月も時間を空費したわけだ。
「日本の手の内を(外国に)明かせない」。この論法で首相が詳細な答弁を拒む場面は、予算審議を通じて随所に見られた。中国や北朝鮮の軍事活動で緊張が…
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週刊エコノミスト
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