教養・歴史書評

書店界に再考迫る八重洲ブックセンターの休業 永江朗

 東京駅八重洲口駅前の八重洲ブックセンター本店が3月31日で営業を終了した。街区の再開発にともなうもので、2028年度竣工予定の超高層複合ビルに出店予定だそうだから、閉店というよりも一時休業というべきかもしれない。なお、本店以外の各店は従来通り営業を続ける。

 振り返ると、八重洲ブックセンターの登場は、戦後書店史の転回点だった。鹿島による出店計画が示されたのは1973年。書店界の猛反発によって沙汰やみになったかに思えたが、77年、地上8階、地下2階、売り場面積約5000平方メートル(約1500坪)の構想が発表されると、書店界は騒然となった。

 東京都書店商業組合は絶対反対を表明し、反対署名運動、関係官庁への請願・陳情、さらには「鹿島の書店進出絶対反対」という横断幕やプラカードを掲げてのデモ行進も行われた。

 結局、超党派議員の斡旋(あっせん)のもとで、売り場面積は予定の半分の約2500平方メートル(約750坪)に縮小し、雑誌と文庫本、そしてコミックは扱わないということで合意に達した。

 78年9月18日、予定よりも半年あまり遅れての開店日には、5万人もの客が押し寄せたといわれる。同じような光景はジュンク堂書店池袋本店や紀伊國屋書店新宿南店、丸善丸の内本店など、超大型店が開店する際には何度も見られるようになった。「大型書店にはなんでもある」という消費者の期待であり、それは「既存の店には求めている本がない」という渇望の表れでもある。

 書店界は消費者の求めにどう応えていったのだろう。出店反対運動の意義と意味について、書店界・出版界はいまいちど考える必要がある。

 その後、ジュンク堂書店など超大型店が登場する中で、同店も売り場面積を広げ、扱い商品も拡充していった。16年には取次大手のトーハンが鹿島グループから発行株式の49%を譲り受け、社長には山崎厚男元トーハン会長が就いた。

 そして現在、大型書店の閉店が続いている。ビルの老朽化など事情はさまざまだが、人件費や光熱費の高騰など取り巻く環境は厳しい。5年後の八重洲ブックセンターはどのようなかたちで現れるのだろう。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2023年4月25日号掲載

永江朗の出版業界事情 書店界に再考迫る八重洲ブックセンターの休業

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