経済・企業

米銀発危機の連鎖 焦点は「信用収縮」(編集部)

「週末、ニューヨークと電話会議に追われた。彼らが注視しているのは、ゆうちょ銀行と農林中央金庫だ」

 東京都心のオフィスでそう語るのは米金融業界の関係者だ。3月10日、米シリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻した直後から、ニューヨークの本部は邦銀への影響に関心を強めているという。

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 同じ頃、『ウォール・ストリート・ジャーナル』やブルームバーグなど英語圏メディアも「SVBと邦銀」を結びつける記事を相次いで載せた。例えばロイターは「SVB事態で邦銀の債券保有が焦点、株価上昇は急停止」というタイトルの15日付記事で、「邦銀は債券を大量に保有する点でSVBと共通する。債券利回りが上がると価格は低下することから支払い能力のリスクを抱える」と伝えた。ブルームバーグは16日、「貸し出しより証券投資に重点を置く農林中央金庫、ゆうちょ銀行、信金中央金庫のような銀行にとって、金利感応度は非常に高い」と、米格付け会社の分析結果を報じた。

 ゆうちょの決算説明資料によれば、2022年末現在、運用資産の34・9%に当たる77兆円を外国債券と投資信託に投資しており、後者については「投資対象は主として外国債券。プライベートエクイティファンド等を含む」と脚注に記す。つまり、77兆円の多くは米国債を含む外国債券だ。農林中金の外国債券も同年9月末現在、24兆円に上る。

 SVBは米国債の多くを満期まで保有するつもりだったが、売却損が膨らんだ。3月上旬、ソーシャルメディアで信用不安が拡散し、顧客の「バンクラン」(取り付け騒ぎ)が破綻の引き金となった。

 ゆうちょは「当行は、SVBと異なり個人預金が大宗であり、一般的には(SVBのような)法人預金や市場性調達に比べて流動性の面で安定的」とした上で、流動性が高い日銀当座預金を中心とした預け金を60兆円超保有していることなどから、SVBとは状況が異なるとする。農林中金も「貯金者の多くは農漁協の組合員(出資者)でもあることから、金庫の預金の属性は(テック企業が多い)SVBと大きく異なり、粘着性も非常に高い」と説明。

 米投資信託評価会社モーニングスターのシニア・エクイティ・アナリスト、マイケル・マクダッド氏は「日本でバンクランが起きるリスクは非常に低い」としつつ、こう話す。

「ゆうちょと農林中金は米国債の投資額が大きいため、投資活動に変化があれば、巨大な米国債市場にさえ影響を及ぼし得る。仮に新規投資をやめるようなことがあれば、債券利回りが上がりかねない。だから米当局も米メディアも関心を持たざるを得ない」

米銀は融資厳格化

 SVBの破綻後、米地銀のシグネチャー銀行が破綻し、クレディ・スイスが経営危機に陥ってライバル行に救済買収された。信用不安の連鎖は米欧を駆け巡っている。

 三菱UFJ国際投信の荒武秀至チーフエコノミストは「米経済は今までインフレが焦点だったが、信用収縮がきっかけになって潮目が変わろうとしている」とみる。荒武氏が根拠とするのは、米連邦準備制度理事会(FRB)が調べた商業銀行の融資基準だ。最新の今年1月調査分では、大・中堅企業向け融資を「厳格化した」という回答は44.8%、中小企業向けでは43.8%に達した(図)。FRBが金融引き締めを始めてから銀行が融資基準を厳格化するまで1年ほどのタイムラグが見受けられる。次回調査はSVBなどの米銀が破綻した後の4月だ。翌5月発表の次回調査結果で、「融資基準のさらなる厳格化が明らかになるだろう」と荒武氏は見通す。

 FRBは5月、政策金利の上限を現行の5%から0.25%引き上げるという見方が多い。荒武氏は「政策金利を5%までに引き上げたことで名目成長率を超えたとみられる。過去の経験上、利上げ水準がオーバーキル(行き過ぎて景気に悪影響があること)となることが分かっている」と指摘する。

 FRBの利上げから1年。米国債価格の下落が銀行の破綻を誘発し、実体経済を冷やし込もうとしている。世界は再び金融危機に直面するのか。その火種が見え始めたことは確かだろう。

(谷道健太・編集部)


週刊エコノミスト2023年4月25日号掲載

世界金融危機 米銀発危機の連鎖 焦点は「信用収縮」=谷道健太

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