インタビュー「観光産業成長のためには投資が必要」デービッド・アトキンソン小西美術工芸社社長
日本の観光戦略では、インバウンドの客単価を2030年に25万円に引き上げる目標がある。その実現のために何が必要かを聞いた。(聞き手=村田晋一郎・編集部)
── インバウンド(訪日外国人)の回復の状況をどう見ているか。
■2023年2月に新型コロナウイルス禍前のピークの19年の57%弱まで回復しているが、中国人が簡単に訪日できない中でここまで回復しているのは、おそらく誰の予測よりも速いペースだと思う。中国人を除くとコロナ前の80%まで回復している。
── 政府は東京オリンピック前に定めた30年に訪日外国人6000万人という目標を変えていないが、この目標をどう見るか。
■6000万人はちょっときついのではないか。現在の観光戦略は安倍晋三政権の菅義偉官房長官の時代に訪日外国人1000万人でスタートしているが、まず20年に4倍の4000万人、そこから10年かけて30年に6000万人という計画だった。岸田文雄政権になってから、それまでの観光戦略は変更されていない。
今の勢いでは、23年はおそらく1700万人から2000万人になり、25年にはコロナ前のピークを上回り3400万~3500万人になる可能性が高い。ただ、そこから5年で6000万人は厳しい感じがする。
成長の循環をつくる
── 日本の観光産業が成長産業となる上での課題は何か。
■日本の観光戦略の特徴として、訪日外国人の数だけでなく、消費額の目標も設定している。もともとの目標は20年に訪日外国人数が4000万人で、消費額が8兆円、30年には6000万人で15兆円だ。客単価では20年の20万円から30年に25万円に引き上げる目標を定めている。
今まで20万円しか使わない旅行者に25万円使ってもらうためには、現在の供給体制を変える必要がある。ただし富裕層はあくまで全体の10%なので、6000万人の訪日外国人をターゲットにしている以上、単に富裕層向けの高付加価値サービスを提供すればよいというものではない。
── 単価を上げるために必要なことは何か。
■投資をして、稼ぐ力を強化していくことが必要だ。「おもてなし」の心があるからといって、20万円が25万円になることはない。
おもてなしは日本の魅力だといわれているが、その概念には二つ問題がある。一つは、そもそもおもてなしは投資をしないことであり、頭を下げるだけだ。ノーを丁寧に言ったからといって、それはホスピタリティーではない。もう一つは、訪日外国人が数百万人の時と3000万人の時とで、おもてなしに差はない。おもてなしと訪日外国人の増加に因果関係はない。
── 投資に尽きると。
■ここは観光産業も他の産業と同様で、成長には投資が必要だ。投資をしてサービスの質を向上させ、単価を上げて収益を上げて、それを再び投資に回す循環が必要となる。例えば、新宿御苑では入園料を19年に200円から500円に引き上げた。しかし、入園者数は減っていない。単価を上げることで、施設を新しくしたり、植物の管理を向上させたりした。入園料は上がっても来園者の満足度は上がっている。こういう循環は資本主義の基本だ。
(デービッド・アトキンソン 小西美術工芸社社長)
■人物略歴
David Atkinson
1965年英国生まれ。オックスフォード大学で日本学専攻、92年ゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートで注目を集める。2009年に小西美術工芸社に転じ、14年から現職。
週刊エコノミスト2023年4月25日号掲載
インタビュー デービッド・アトキンソン 稼ぐ力を強化するため観光産業には投資が必要