緊急地震速報に追加された“長周期地震動”とは/143
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気象庁が出す緊急地震速報に、今年2月から長周期地震動が加わることになった。緊急地震速報とは、震源に近い観測点で地震の初動をキャッチし、遠く離れた場所にできるだけ早く地震の揺れを伝えるシステムである。例えば、南海トラフ巨大地震のように海底で起きる場合、震源から離れている陸域では、強い揺れが来る前に避難することができる。
一般に超高層ビルは、日常よく経験するガタガタ揺れる短周期地震動では揺れにくい。一方、震源から遠く離れた地域にある超高層ビルが、長周期地震動によって地盤と共振してゆらゆらと大きく揺れることがある(本連載の第107回を参照)。
日本では1970年代から超高層ビルの建設が始まったが、長周期地震動をもたらす巨大地震が少なかったこともあり、地震に強い超高層ビルという安全神話が広まった。
ところが、マグニチュード(M)8.0を記録した十勝沖地震(2003年)で発生した長周期地震により、北海道苫小牧市内の石油タンクが炎上し、その大きなリスクが注目され始めた。
また、東北沖で起きた東日本大震災(11年)では、震源から遠く離れた超高層ビルが大きく揺れた。震源から770キロメートル離れた大阪市にある大阪府咲洲(さきしま)庁舎の最上階では、最大3メートルの横揺れが10分ほど起こり、壁と天井が崩れる被害が出た。ちなみに、東京消防庁管内にある地上21階建て(約60メートル)以上のビル棟数は、11年の665棟から21年には880棟と、10年間で3割以上も増加している。
前回紹介したM9.1と想定されている南海トラフ巨大地震でも、長周期地震動が発生して高層ビルの被害を大きくする恐れがある。国土交通省は、関東や静岡、中京、大阪の各地域にある高さ60メートル超の既存超高層ビルで、設計時に構造計算に用いた地震動の大きさを上回る可能性があるとして対策を促している。
4階級に分け設定
気象庁は長周期地震動の階級を4段階に分けて設定しており、新しい緊急地震速報は「階級3」以上の揺れが予想される地域へ発表される。具体的には、「階級3」は人が立っていることが困難で室内の不安定な家具が倒れる状況となり、…
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週刊エコノミスト
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