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教養・歴史 鎌田浩毅の役に立つ地学

南海トラフの後発地震「半割れ」 確率高い1週間以内の発生/142

 南海トラフ巨大地震は確認できる限り歴史上9回起きており、近い将来日本列島で発生する最大の地震被害が想定されている。太平洋の静岡沖から宮崎沖まで東西800キロメートルの海底にある震源域でマグニチュード(M)9.1の巨大地震が発生し、最大高32メートルの津波と最大震度7の強震動が起きる可能性が高い。

 その際、想定される震源域のすべてが割れるのではなく、時間をおいて部分的に割れ目が伝播(でんぱ)する。これは「半割れ」と呼ばれる現象で、震源域の片方でM8以上の地震が発生した後、残りの地域で連動して地震が起きる。

 こうした場合に気象庁は「南海トラフ地震臨時情報」を発令し、最もリスクが高いケースに対しては「巨大地震警戒」というキーワードを付ける。これが時間をおいて「半割れ」が起きる場合に当たり、津波からの避難が間に合わない地域の住民に1週間の事前避難を求める。

 過去の例を見ると、こうした「半割れ」の時間差は2年から数十秒までとバラツキがある。具体的に見ると、前回は昭和東南海地震(1944年)と昭和南海地震(46年)が2年差で発生し、前々回の幕末(1854年)には安政東海地震の32時間後に安政南海地震が起きた。また、3回前の江戸時代(1707年)では、すべての震源域が数十秒で連動したとされる。

 東北大学などの研究グループは今年1月、南海トラフ沿いで最初の巨大地震が発生した後の1週間以内に同規模の後発地震が起きる確率が、平時の99~3600倍に高まることを明らかにしている。

 国は南海トラフでM8~9級の巨大地震が、30年以内に70~80%の確率で起きると試算しているが、その発生日時を予知することは現在の地震学では不可能である。よって、震源域の片方で地震が発生したら、ただちに残りの地域で連動地震を警戒する必要がある。

低認知の「臨時情報」

「南海トラフ地震臨時情報」は2019年に開始されたが、高知県の調査(21年度)では「知らない」が49.2%の一方、「知っている」はわずか20.3%にとどまる。また、静岡県の調査(22年度)でも「聞いたことがない」が38.2%なのに対し、「知っている」は24.4%にすぎない。

 南海トラフ巨大地震は2035年±5年に起きると想定され、総人口の約半分にあたる6000万人が被災するとされる(本連載の第16回を参照)。複雑な現象が広範囲に起きる激甚災害であり、理解がなかなか進まない実態が浮き彫りになっている。

 さらに、南海トラフ巨大地震は西日本だけでなく想定震源域から離れた首都圏の超高層ビルに対して、長周期地震動による大きな被害をもたらす恐れがある。次回は07年から運用されている「緊急地震速報」の対象に、この長周期地震動が加えられた解説をしよう。


京都大レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授 鎌田浩毅氏
京都大レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授 鎌田浩毅氏

 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学名誉教授・レジリエンス実践ユニット特任教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。


週刊エコノミスト2023年4月11・18日号掲載

南海トラフの「半割れ」 確率高い1週間以内の後発地震/142

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