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米大統領選を展望する㊤ 共和党予備選でトランプ氏は勝てるのか 中岡望

米ニューハンプシャー州マンチェスターの選挙イベントで演説するトランプ前大統領(2023年4月27日) Bloomberg
米ニューハンプシャー州マンチェスターの選挙イベントで演説するトランプ前大統領(2023年4月27日) Bloomberg

 米国では2024年の大統領選挙に向けて、現職のバイデン大統領が出馬表明し、民主党と共和党ともに候補者選びの予備選挙運動が今後本格化する。米大統領選の予備選の仕組み、両党の立候補者を紹介しながら、大統領選の行方を展望する。2回に分けて掲載する。

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予備選挙で決める党の大統領選候補者

 2024年の大統領選挙に向け民主・共和両党の大統領候補者を選ぶ予備選挙が行われる。民主党は現職のバイデン大統領が4月25日に正式に出馬表明をした。現職大統領に挑戦する候補者は2人である。3月4日に立候補を表明した女性作家のマリアン・ウィリアムソン氏と、4月5日に表明した弁護士のロバート・ケネディ・ジュニア氏である。ケネディ・ジュニア氏はロバート・ケネディ元上院議員の息子で、ケネディ元大統領のおいにあたる。

 共和党では6人が表明している。トランプ前大統領は昨年11月15日に早々と表明した。他の有力な候補として、トランプ政権で国連大使を務めたニッキー・ヘイリー氏(出馬表明は2月14日)、アサ・ハッチンソン前アーカンソー知事(同4月2日)などが名を連ねている。トランプ氏の最大のライバルと目されているロン・デサンティス・フロリダ州知事はまだ正式な出馬表明を行っていない。

 党の予備選挙を勝ち抜いた候補者が正式な大統領候補に指名される。両党の予備選挙の投票は24年1月から始まる。

 従来はアイオワ州で両党の最初の予備選挙が行われ、2番目がニューハンプシャー州であった。だが今回、民主党全国委員会は最初の予備選挙を2月3日にサウスカロライナ州で行うと決定している。共和党は従来通り1月22日にアイオワ州で最初の予備選挙を行う予定だ。従来は同日に両党が同じ州で予備選挙をスタートさせたが、今回は変則的な日程になる。

来年夏には正式な大統領選候補者を決定

 予備選挙が行われる前に候補者による公開討論会が何度か行われる。共和党は8月に最初の公開討論会をミルウォーキーで開く予定である。2回目の討論会はカリフォルニア州シミバレーで行われる予定だが日程は未定だ。

トランプ前大統領は共和党の予備選挙を勝ち抜くことができるのか(2023年4月27日) Bloomberg
トランプ前大統領は共和党の予備選挙を勝ち抜くことができるのか(2023年4月27日) Bloomberg

 共和党全国委員会は、公開討論会に参加した候補者は、正式に指名された候補を必ず支持するという条件を付けようとした。それはトランプ氏が敗北した場合、第3党から立候補するのを阻止する狙いがあった。だが、トランプ氏はその要請を拒否している。民主党も異例で、バイデン大統領は公開討論会を回避する意向だと伝えられている。

 予備選挙は州ごとに行われ、各州には代表者(delegate)が割り当てられている。候補者は投票結果に応じて代表者を獲得し、早ければ4月には勝者が明らかになる。予備選挙の結果を受け、共和党は24年7月15日から18日までミルウォーキーで全国大会を開いて正式に大統領候補を決定しする。合わせて「政策綱領」も採択する。民主党は8月19日から22日にシカゴで全国大会を開催することになっている。

 党の大統領候補が正式に決まると、大統領選挙が始まる。大統領選挙の最大のハイライトは大統領候補による公開討論会である。ただ現時点では回数と日程は決まっていない。20年の大統領選挙では公開討論会は2回行われた。過去には3回行われたこともある。

支持率では他の候補者を圧倒するトランプ氏

 現時点で予備選挙の結果を予測するのは早すぎるが、民主党はバイデン大統領以外の2人が指名される可能性はないだろう。ただ、11月の大統領選挙までに、高齢のバイデン大統領に健康問題などが出てくれば、情勢は一気に変わるかもしれない。

 共和党はどうか。昨年11月の中間選挙で共和党は圧勝すると見られていたが、実際には苦戦を強いられた。下院は僅差で過半数を獲得したが、上院では逆に民主党が議席を増やして過半数を獲得した。その最大の要因は、トランプ氏が推薦した極右の候補が相次いで落選したことにあり、共和党の不振の原因はトランプ氏にあるとの見方が強まった。

 その結果、共和党内でトランプ氏以外の候補者を模索する動きが出て、フロリダ州知事選で圧倒的な票を獲得して再選を果たしたデサンティス知事が有力候補として急浮上した。だが、同知事は現時点では正式に立候補する意思を明らかにしていない。5月中旬か6月初めに立候補宣言すると見られている。

ニューヨークの連邦裁判所を出るE・ジーン・キャロル氏(2023年5月3日) Bloomberg
ニューヨークの連邦裁判所を出るE・ジーン・キャロル氏(2023年5月3日) Bloomberg

 ただ、世論調査ではトランプ氏が圧倒的にリードしている。4月18日~5月3日に行われた6件の世論調査の支持率の平均を見ると、トランプ氏支持が53.5%であるのに対し、2位のデサンティス氏は22.2%に留まっている。3位には立候補宣言をしていないペンス前副大統領が登場し、支持率はわずか5.8%である。最も果敢にトランプ氏に挑んでいるヘイリー元国連大使は4位と低迷し、支持率も4.2%に過ぎない。

 世論調査を見る限り、予備選挙は「トランプ対デサンティス」の一騎打ちになる可能性が強い。現時点でデサンティス知事は世論調査でトランプ氏の後塵を拝しているが、これは同知事の全国的な知名度が高くないことを反映している。正式に立候補し、公開討論会などが開かれれば、状況が変わってくる可能性は十分にある。

 さらには、トランプ氏にはアキレス腱がある。3件の刑事事件で起訴される可能性があることだ。機密文章持ち出し事件、大統領選挙でジョージア州での選挙介入事件、21年1月6日の議会乱入事件への関与である。

 こうした事件の展開次第では、トランプ氏が安泰とは言えなくなる可能性もある。ポルノ女優に対する口止め料の支払いに関連した虚偽記載事件では既に起訴され、刑事事件で起訴された最初の大統領になっている。さらに女性コラムニストのE・ジーン・キャロル氏に対する性的乱暴に関する民事訴訟では、5月9日に500万ドルの慰謝料の支払いを命じられている。予備選挙が進めば保守派の女性や無党派の離反を招く可能性も十分にある。

CNNの市民集会にトランプ氏が初登場

 ところで、CNNが主催する市民集会が、5月10日にニューハンプシャー州マンチェスターのセント・アンセルム大学で開かれ、トランプ氏が出席しが、約1時間にわたる集会は、トランプ氏の独壇場だった。出席者はトランプ氏1人で、質問者はCNNのホワイトハウス詰めの記者ケイトラン・コリンズ氏である。コリンズ氏がトランプ氏に質問し、トランプ氏が答える形式で行われた。途中で会場からも質問を受け付けた。

 政治専門紙「The Hill」は、市民集会について「CNNが敗北したほど、トランプは勝利しなかった(Trump did not win so much as CNN lost it)。それは壊滅的であった」と微妙な表現で評価している。ただ、コリンズ氏は明らかに力不足で、トランプ氏の欺瞞に満ちた独演会を許してしまった。結果的にトランプ氏の決起集会の様相を呈するような集会になり、当然のことながら、会場からトランプ氏に対して厳しい質問は出てこなかった。

 市民集会後、民主党のリベラル派を代表するアレキサンドリア・オカシオコルテス下院議員はツイートで「CNNは恥ずべきである。彼らは完全に市民集会のコントロールを失い、(トランプ氏によって)操作され、市民集会を誤った選挙情報の拡散の場や、1月6日の議会乱入事件の正当化する場、性的虐待の被害者を公然と攻撃する場へと変えてしまった。聴衆はトランプ前大統領の発言に喝采し、ホスト役のコリンズ氏を嘲笑した」と、厳しく批判した。市民集会が終わった後のCNNの番組でコメンテーターも「トランプは嘘をつき続けている」「トランプはまったく変わっていない」とコメントしていた。

 これに対して、トランプ氏の選挙運動責任者は市民集会後に声明を出し、「今夜、トランプ大統領は、就任最初の日からバイデンによって引き起こされた衰退を逆転させるビジョンを提示した。ジョー・バイデンは、インフレ、経済、国境、犯罪、エネルギー、中国、ロシアなどすべてを惨事に変えてしまった。トランプ大統領は経済を救い、インフレを抑制し、国境の安全を確保し、ディープ・ステート(影の政府)を破壊し、第3次世界大戦を阻止する」と、市民集会でのトランプ氏の“成功”を讃えたのだ。

 他方、デサンティス知事を支援する資金団体「Never Back Dowan」は声明を発表し、「ロン・デサンティスが国境危機問題でジョー・バイデンを攻撃していた同じ日に、ドナルド・トランプはCNNでデサンティスを攻撃し、自分は国境の壁を完成させたと嘘をついていた。CNNの市民集会は予想された通り、トランプが過去に囚われ、身動きできないことを証明する意味のない1時間であった。76年の間(トランプ氏は現在76歳)、トランプは中絶問題や銃規制といった保守派の重要な政策に関して自分がどんな立場にあるかを依然として理解していない。どうして、それでアメリカを再び偉大(Make America Great Again)にできるのだろうか」と、トランプ氏に対して厳しい批判を加えた。

 これはデサンティス陣営のトランプ氏への挑戦状である。次回は、トランプ氏のこれまでの発言を中心に、大統領選の行方を分析する。

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