わかってほしい、ほしくない…… JAXA研究員が表現する「宇宙」 北條一浩
有料記事
『ワンルームから宇宙をのぞく』
著者 久保勇貴さん(JAXA宇宙科学研究所研究員)
分かってほしい、ほしくない……JAXA研究員が表現する“宇宙”
広大な宇宙と、小さなワンルーム。対極にあるような両者をつなげたユニークな本だ。
「コロナ禍にあって外出せず、一人で小さな部屋の中から宇宙を研究しているイメージです」
著者の久保勇貴さんはこう話す。目次には「ノンホロノミック」「トレミーの定理」といったなにやら難解な言葉も並んでいる。しかし心配は無用。やわらかなタイトルからして専門書でないことが明白であるように、本書にはこの地球上で生活している一人ひとりのささやかな営みが、すべて宇宙に抱かれて展開されていて、つまり宇宙と無縁の人なんていない、ということを平易な言葉で理解させてくれる。
例えば久保さんの研究テーマの一つである「太陽光圧」。太陽の光といえば人やモノを照らしてくれる存在だが、「実は光を受けた物体はその面をちょこっとだけ押されるのである」。えっ、照らすだけでなく光に押されてもいるの? 新鮮な驚きの数ページ先には、「思うに、文字は光子だ」「文字一つ一つが読む人の心をちょっとずつ動かしていき、やがて文章は人を動かす大きな力になる」とある。太陽と生活がこうして新たな認識でつながっていく。
そして久保さんの宇宙に対する関心の発端には「恐怖」があった。
「子供の頃、『いつかは自分も死ぬ』という思いに取りつかれ、怖くて仕方がなかったんです。そこから死、無限、永遠……といったことを考えるようになり、宇宙への興味につながっていったような気がします」
長じて久保さんはJAXA(宇宙航空研究開発機構)に勤務するようになる。専門は宇宙機の制御だ。
「宇宙機は基本的に自動制御ですが、うまくいかなくなるケースがあります。致命的なのは自分の体の向きをコントロールできなくなること。太陽電池で動いているのに太陽の方…
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週刊エコノミスト
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