教養・歴史著者に聞く

非常事態に便乗する“権力”から身を守るには 北條一浩

『堤未果のショック・ドクトリン』

著者 堤未果さん(国際ジャーナリスト)

正攻法を避け知恵を使う 地方の動きに注目

 カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインが2007年に出版した『ショック・ドクトリン』。戦争や津波、ハリケーンなどの大災害、食糧危機といった非常事態が発生し、人々がぼう然としているすきに、どさくさまぎれに市場主義経済を推し進めようとするグローバル資本主義の正体を、彼女はそう名付けた。この本は世界中で反響を呼び、日本では東日本大震災が起きた11年に翻訳書が出版された。

「当時のアメリカは、9.11以降、テロとの戦いと称して国連決議も経ずに爆撃をしたり、貧困層の若者に対して学費免除などの経済援助をエサに軍隊への入隊をうながす経済的徴兵制を敷くなどしていました。その一方で異常にもうけている連中がいるらしい。なぜ?とモヤモヤしている中で彼女の本が出たんです」

 どうやらそこには、非常事態に便乗する際の一定のやり方があったようだ。堤さんは、こうしたショック・ドクトリンが世界の違う場所で起きていないか、別の時代にもなかったか、調べ、考えるようになる。

「東日本大震災のショックを受け、復興にはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)が欠かせないとするやり方など典型的です。政治の動き方といい、メディアの煽(あお)り方といい、アメリカの9.11と日本の3.11はパターンが似ています。不安を煽る大量の情報で人々を思考停止させたすきに、危険な法律をねじ込むんです」

 ショック・ドクトリンにのまれないためにはどうしたらいいか。

「例えばイタリア。日本にとってアメリカが脅威であるように、イタリアにとってはEUがそれにあたります。財布はEUがにぎっているから口を出してくる。『脱炭素をどんどんやれ、そして昆虫食を推進しろ』と言われた時、イタリアは『昆虫食はいいが、パスタに入れるのはやめてほしい』『パスタ以…

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週刊エコノミスト

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