無茶で得がたい美術展 “ひどい絵”が“記念碑的作品”へ 石川健次
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美術 東京国立近代美術館 70周年記念展 重要文化財の秘密
正直言ってこれは無茶な展覧会である──と、企画した東京国立近代美術館の担当者が本展図録に寄せた文章の冒頭でいきなり振り返るくらいだから、実現までの困難はさぞかしだっただろう。思いついても普通は実行に移す者はいない、とも付け加えるほどだから、稀(まれ)な機会なのも疑いがない。
文化財保護法に基づき、美術工芸品など文化史上特に貴重なものは重要文化財に指定され、保護されている。それゆえ所蔵者は滅多(めった)に貸してはくれない。年間貸出日数の制限もある。そのうえで史上初めて、展示作品すべてが重要文化財という本展が実現した。
現在、書跡などを含む美術工芸品の重要文化財は1万872件。さすがにすべてを並べるのは物理的にも不可能だ。だが明治以降の絵画、彫刻、工芸に限れば68件で、本展にはそのうちの51点が並ぶ。下絵を含めて1件とする場合があり、件数と点数は一致しない。展示が叶(かな)わなかった作品はあるものの、日本の近現代美術を中心に収集、保存、調査・研究を行う代表的な美術館ゆえに実現した「得がたい機会」(本展図録)である。
名作中の名作を前に、ひたすら眼福にあずかるのもよし。加えて、「『問題作』が『傑作』になるまで」と本展が謳(うた)うように、作品が重要文化財に指定されるまでの、ときに数奇な歩みも興味を誘う。
例えば、図版に挙げた萬(よろず)鉄五郎の《裸体美人》。1912(明治45)年、東京美術学校(現東京藝術大学)の卒業制作だ。当…
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週刊エコノミスト
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