米外交官に相次ぐ体調不良「ハバナ症候群」 “攻撃”の可能性は低いものの謎は深まる 西田進一郎
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世界各地で勤務する米外交官らは近年、原因不明の体調不良を訴えてきた。「ハバナ症候群」と呼ばれるものだ。これについて、米国の情報機関を統括する国家情報長官室が今春、一つの結論を出した。疑われていた外国勢力の関与について、可能性は低いとし、病気や環境などが原因との見方を示すものだった。
ハバナ症候群は、2016年から17年にかけ、キューバの首都ハバナにある米国大使館の職員が症状を訴えたのが始まりだ。職員やその家族らが、めまいや頭痛、耳鳴りなどの症状を次々と報告した。米国とキューバが半世紀以上ぶりに国交を回復し、互いの大使館をそれぞれ設置した翌年のことだった。米国はキューバによる何らかの「攻撃」を疑い、両国関係が緊張した。その後、中国やロシアなどにある米国の在外公館職員らも似たような症状を訴えた。
伏線はモスクワの事件
浮上したのは、音波やマイクロ波を照射されていたのではないかという疑いだ。これには伏線がある。旧ソ連が1950年代から70年代にかけ、モスクワの米国大使館に対し、向かい側の建物からマイクロ波を照射していた「モスクワ・シグナル事件」だ。目的は通信傍受とみられる。
米研究機関「ナショナル・セキュリティー・アーカイブ」が昨年9月に公開した一連の機密解除文書が興味深い。照射に気づいた米国が極秘に行った研究や外交交渉に関する文書だ。中でも、75年に当時のキッシンジャー国務長官がモスクワ訪問に先立ち、駐米ソ連大使のドブルイニン氏にかけた電話は緊迫感がある。
キッシンジャー氏は「シグナルについて話をしたい」と切り出す。「何のシグナル?」と返すドブルイニン氏に、「あなたたちがモスクワの米大使館に向けて発しているビームだ」と指摘し、「私が行く前に止めておいてくれないか」と要求。照射が明るみに出れば大きなスキャンダルになることを示唆して、このままでは「地獄を見ることになる」と警告した。…
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週刊エコノミスト
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