投資・運用 最強のマンション購入術
震災後のマンション再建例が教える“被災想定”の重要性 大木祐悟
熊本大地震では被災マンションの再建で明暗が分かれた。管理組合は平時から被災を想定したプランを準備しておく必要がある。
マンションは堅牢(けんろう)な建物であるため、自然災害にも強いと考えられているが、巨大災害が発生すれば一定の被害が発生する可能性もある。マンションの被災が広く注目されるようになったのは、1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)であるが、2011年の東日本大震災や16年の熊本大地震でも少なからぬ数の分譲マンションが被害を受け、建て替えや売却を検討せざるを得なくなった事例も生じている。
ところで、分譲マンションの各部屋(専有部分)は購入した人の「区分所有」の対象となっているが、土地や入り口、エレベーターなどの建物の共有部分は原則として区分所有者全員で共有されているため、建物が被害を受けたときに復旧を進めるためには区分所有者の合意形成が必要となる。そのため、このような場面で迅速な対応をするには、管理組合が日ごろから備えをしていることに加えて、管理が適切に行われていることが重要となる。いざというときに区分所有者に連絡がつかないと総会を開くこともできないし、修繕積立金が十分に無ければ、復旧のための予算措置を講じることも困難となるからである。
もっとも、適切に管理されていることは被災マンションの復興を考えるうえで必要条件ではあるが十分条件というわけでもない。本稿では、熊本の被災マンションで最終的に「建て替え」を選択した二つのマンションについて比較しながら、このことについて考えてみたい。
「復旧と建て替え」並行検討
取り上げるのは、2016年4月14日の熊本大地震で被災したAマンションとBマンションだ。二つのマンションは、地震から2カ月ほどで熊本市から被害の程度を認定する罹災(りさい)証明を受けていることからも、管理レベルは高いマンションであることが確認できる。Aは地震から8カ月後に管理組合が建て替え推進決議をしたのち、1年5カ月後には建て替え決議を行い、2年3カ月後には再建後のマンションの着工を果たしている。しかし、Bでは建て替え推進決議まで2年10カ月、建て替え決議まで4年1カ月を費やし、再建後のマンションの工事着手に入ったのは地震から5年2カ月後と大きな差がついてしまっている。
二つのマンションの復旧に大きな時間差が出た最大の理由は、Aでは復旧と建て替えを同時に検討したうえで、被災から8カ月後には建て替え推進決議を行っているのに対して、Bでは「復旧」→「建物除却と土地売却」→「建て替え」と順番に検討を進めることとなったことだろう。被災した時点で築30年に満たないBでは、初期時点では「建て替え」は考えにくかったのかもしれないが、結果的には建て替えが最良の選択肢であったことを考えると、当初から並行して検討していれば、最終的な対応までの時間も大幅に短縮できたのではないかと思われる。
大規模災害が発生した場面で建物が被災したときは、可能な限り迅速に復旧の手続きを進めるべきである。被災者の生活の再建をするうえで住まいは基本の一つであることに加え、公的な支援(公費解体の申し込みの他、仮住まいの支援等)を受けるときに期間的な制約があるためである。
長期仮住まいの弊害
また、仮住まいが長期に及ぶと、再建後の建物に戻ろうとする気持ちもうせてしまう割合も高くなる。現実に、本稿で示した二つのマンションにおいても、Aでは建て替え前の区分所有者の約70%が再建後のマンションを再取得しているが、Bの場合はその割合は約30%に過ぎない状態だった。
また、被害規模が大きくなると復旧や再建等のための工事の必要性が急増するが、一方で建築関係者の数を急に増やすことはできないため、建築費も高騰するし、そもそも費用の準備ができたとしても、工事のめどが立たないことさえ考えられる。このようなことから、少なくとも旧耐震構造の建物についての耐震補強等、建物が壊れにくくなるような準備も必要ではないだろうか。
災害等でマンションに被害が生じたときは、被災の程度によって復旧等の手続きが異なるし、そもそも被災の程度の判断基準についても知らない人が多いのではないだろうか。復旧の手続きについて理解しておくことは、マンション防災を考えるうえでも必要なことと思われる。加えて、万が一のときに専門家に相談できる体制を構築しておくことも必要だろう。
関東大震災から100年、私たちは「防災」についての意識は常に持っていたいものである。
(大木祐悟・旭化成不動産レジデンス マンション建替え研究所副所長)
週刊エコノミスト2023年5月16日号掲載
最強のマンション購入術 被災マンションの再建 初動の遅れが再建で4年の差 組合は「被災想定」の備えを=大木祐悟