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新築・中古とも高値続き 賢く買うための注意点五つ 日下部理絵

賢く買うには、情報収集を徹底し、気になる物件は内見(Shutterstock)
賢く買うには、情報収集を徹底し、気になる物件は内見(Shutterstock)

 3月に首都圏で発売された新築マンション1戸当たりの平均価格は、1億4360万円と単月で初めて1億円を超えた。不動産経済研究所によると、1973年調査開始以来の最高価格だという。

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 これだけ高いと買い控えがみられる一方で、大手企業では賃上げの復活、長期的には超低金利局面が終わる可能性があること、コロナ禍の落ち着きを受け、「夢のマイホームを今年こそ……」と考える人は多いのではないか。

 なぜここまで価格が上がってしまったのか。人生で一番高い買い物をどうすれば賢く購入できるのか。価値ある物件を少しでも割安に購入するポイントを解説したい。

価格は13年から右肩上がり

 マンション価格がいつから上昇しているかというと、2013年からである。不動産経済研究所によると、新築マンションの全国平均価格は12年に3824万円だったのに対し、22年には5121万円にまで上がっている。この間の平均価格の上昇率は33.9%にも及ぶ。まさにバブル期並みである。

 首都圏では22年に6288万円と、バブル期であった90年の6123万円をも上回っている。一方で平均年収は、12年408万円、21年443万円(国税庁「民間給与実態統計調査」)と、この間の年収の上昇率は8.6%である。約10年にわたり平均年収は伸び悩んでいるものの、マンション価格は上昇を続けているというわけだ。

 その理由をざっくり見てみると、アベノミクスに端を発した日銀の金融緩和策、東京オリンピック・パラリンピック決定による建設需要の高まりにもかかわらず、建設業界の人手不足による人件費増や、建築資材・燃料費などの値上がりによって建築費が上昇したこと。また、インバウンド(訪日外国人客)の増加も、商業施設との用地取得の競合により、地価上昇に拍車をかけた。

 さらに、マンションを「終(つい)の住み家」とする世帯の増加や、超パワーカップルと呼ばれる共働き世帯の増加、バブル期とは違う低金利による住宅ローン返済の負担減、さらには売り急がないデベロッパーの姿勢もこの動きを後押しした。

 こうした地価・建築費の上昇要因、社会情勢の変化という複合要因により、マンション価格は上昇を続けている。なお、20年からは新型コロナウイルス感染症の拡大で、若干の調整局面を迎える場面もあったが、現在においても暴落することなく高止まりが続いている。

 これまで不動産価格は、15年前後の一定周期で変動を繰り返してきた。そのため、周期的にそろそろ変動か、つまり、「大暴落があるのではないか」と予想している人もいる。しかし、残念ながら、エリア格差は出そうなものの、少なくても数年程度はマンション価格の高値が続きそうというのが、多くの専門家の共通見解である。

 まず新築物件だ。これから売りに出されるマンションは、現在の高値で仕入れた土地や建築資材で造るため、当然なから販売価格も高くなる。そのため、落ち着くのは早くても数年先になりそうだ。既存(中古)マンションも、新築マンションの価格に引っ張られる傾向があり、一定期間はこのまま高値が続きそうである。

賢く買う五つのポイント

 しかしどれだけ価格が上がろうとも、人は住むところが必要だ。家族構成やライフスタイルの変化などでいま購入したいと思う人も多いだろう。人生で一番大きな買い物といわれる住宅。いま価値ある物件を賢く少しでも割安に買うためのポイント5点を解説する。

①情報収集を徹底
 大手企業では賃上げが見られるものの、普通の勤労者にとっては厳しい時代なのは変わらない。不動産情報や価格は常に動いている。賢く物件を買うには小まめな情報収集が欠かせない。SUUMOやLIFULL HOME'Sなどの物件情報サイトで、一定期間同じ条件で検索すると相場が見えてくる。サイトによっては、希望条件を設定すると、新掲載されたら通知が来るものや、簡易的なものではあるが、過去の成約価格が掲載されているサイトもある。相場や成約価格がわかれば、割安感があると判断できたり、高値つかみを回避できたりする。

②気になる物件は内見
 相場感をつかんだら、気になる物件は時間が許す限り内見していただきたい。実際の部屋を直接見ることで、写真や図面だけではわからないことが見えてくる。例えば、天井の高さ、コンセントの位置、部屋のにおい、景観などである。複数の物件を内見することで、自分が部屋に求める条件もわかってくる。

③価格交渉する
 主に中古物件になるが、気に入った物件が予算に合わない場合、周辺相場や類似物件などの状況がわかれば、有利に価格交渉できる可能性がある。
 例えば、「近隣マンションの○号室とこのマンションの○号室とで悩んでいます」と競争の原理を働かせるのも手だ。気に入ったもののやや高く、「値引きを……」と言い出しにくいというのなら、「とても気に入りました。少し予算オーバーなので歩み寄りをお願いできませんか」と言ってみるのもいい。また、新築マンションなら売れ残り物件、中古マンションなら売り急ぎ物件などを狙うのも手だ。

④優遇制度はないか確認
 次に侮れないのが、勤務先の福利厚生サービスだ(表)。活用すると販売価格や仲介手数料などが割り引きされることもある。なかには登記や引っ越し費用、リフォームやハウスクリーニング費用まで割り引きされる場合がある。活用次第では数百万円違ってくることも。またデベロッパー勤務などの知人、購入経験者など紹介者を通じて買うと安くなることもある。
 例えば8000万円の新築マンションを購入する場合、販売価格から3%割引きされると240万円も違う。また、5000万円の中古マンションを購入し、500万円のリフォームをする場合でも、仲介手数料とリフォーム費用で約60万円も違う。(編集部注:仲介手数料は「成約価格×3%+6万円」+消費税で計算)

⑤特典がないか確認する
 同じ物件でも複数の物件情報サイトに掲載されていたり、チラシが配られていたりする。どの情報から内見し、契約したかで特典が変わることがある。例えば、中古なら仲介手数料半額や無料、10万円キャッシュバック、5万円クオカード贈呈など。ハウスクリーニングを無料でしてくれることも。サイトの摘要欄や備考欄、チラシもよく確認しよう。

避けたい高値の「ダメ物件」

 この約10年間、「増税後がよい」「住宅ローン控除の年数など拡充がある時期がよい」「金利が上昇するから、その前がよい」などと、購入希望者にとっては、いったいいつ購入するのがベストなのか、翻弄(ほんろう)される時期が続いた。

 新築・中古にかかわらず、多くの物件を回遊魚のごとく内見してみたものの、どうも決め手に欠ける気がする。そこで、「価格が高いから」と見送ったところ、価格はさらに高騰し、「あのとき思い切って買っておけばよかったのに……」と後悔している消費者も多いのではないか。いまは、ロシアのウクライナ侵攻、物価高、金利の上昇局面もあり、市場はさらに読みづらく、判断が難しい。

 このような局面において、「安価だから」とか、「自分の年収や貯蓄で買えるから」といったことを購入の決め手にすると、価格に対して価値がない物件を割高で購入してしまいかねない。つまり、物件の価値をしっかり見極めないと、「ダメ物件」を高値つかみしやすい時期が「いま」ともいえる。逆にいえば、高くてもそれ相応の価値がある物件ならば、購入後に売ったり、貸したりしやすく、住み替えや相続などにも対応できる。それだけに物件選びは慎重さや粘り強さも大切だ。

 最後に、首都圏で次の穴場はどこか。23年以降も値上がりが期待できる街を示したい。

 まず、①浅草に近い本所吾妻橋や、亀戸に錦糸町といった下町エリアは割安感があり、価格上昇が続くと予想する。②足立区エリア、綾瀬、北綾瀬、青井、六町などは治安が悪いと長年敬遠されていたが治安改善、都心へのアクセスが良いわりに割安感があり、上昇が続くと予想。③東京都外では、相鉄線と東急線の相互乗り入れが今年3月から始まった。両線の起点になる相鉄線西谷駅周辺の開発が進み、地価上昇が期待される。④路線図の変化は地価に影響を与える。東京メトロ有楽町線(地下鉄8号線)が豊洲─住吉間に延伸される計画が発表されている。その通過エリア付近である、都営新宿線西大島駅や東京メトロ東西線東陽町駅がある江東区のマンションに注目が集まると考えられる。

(日下部理絵・マンショントレンド評論家)


週刊エコノミスト2023年5月16日号掲載

最強のマンション購入術 新築・中古とも高値が続く 穴場は下町や足立区エリア=日下部理絵

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