教養・歴史書評

なぜ“神話国家”は生まれた? 「戦前」の分析から理解 井上寿一

 「新しい戦前」という表現が独り歩きしている。今の日本に「戦争とファシズム」が忍び寄っていることの表現だとすれば、それはまちがいである。思わせぶりな表現に幻惑されて、現状認識を誤るようなことがあってはならない。

 そもそも「戦前」とは何か。辻田真佐憲『「戦前」の正体』(講談社現代新書、1078円)がユニークな議論を展開している。本書によれば、戦前の日本は「神話に基礎づけられ、神話に活力を与えられた神話国家」だった。

 今は違うかと言えば、そうとも言い切れない。山本雅人『天皇陛下の全仕事』(講談社現代新書、990円)によれば、戦後、皇室祭祀(さいし)(宮中祭祀)は、「天皇家の私的な行事」になったものの、神話や国家神道を想起させる「神武天皇祭」や「神嘗(かんなめ)祭」「新嘗(にいなめ)祭」などがおこなわれているからである。

 あるいは2000年5月に森喜朗首相(当時)が日本は「神の国」であると発言して、政治問題化したこともある。

『「戦前」の正体』は、神話に由来する建国の物語を荒唐無稽(むけい)として否定するのではなく、なぜ「神話国家」の物語が国民に受容されたのかを明らかにしている。

 いくつかの事…

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