教養・歴史書評

ノンフィクション低迷が止まらない 本屋大賞ノンフィクション本大賞中止に 永江朗

 本屋大賞のノンフィクション部門、「Yahoo!ニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞」が2023年度から中止となった。NPO本屋大賞実行委員会が5月19日に発表した。「運営体制の変更」が理由だという。本屋大賞実行委員会は、改めて体制を整えてノンフィクション本大賞の実施再開を目指しているとのことである。

 同賞はヤフーが運営するインターネットニュース配信サービスの「Yahoo!ニュース」と本屋大賞が連携した企画で、18年以来5年間続いてきた。第1回の角幡唯介『極夜行』以来、ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』などが選ばれ、22年は川内有緒『目の見えない白鳥(しらとり)さんとアートを見にいく』を選んだ。

 出版界での評価と期待は高かったが、本屋大賞に比べると盛り上がりに欠けたのは否めない。選考は本屋大賞と同じく書店員による2段階投票。1次投票の上位6作品をノミネート作品とし、全作品を読んだ書店員が2次投票する。ただ、直近の3回を見ると、1次投票の参加者は78人、86人、63人。2次投票の参加者は47人、43人、35人と決して多くない。凪良ゆう『汝、星のごとく』を選んだ23年の本屋大賞が、1次投票615人、2次投票422人だったのに対して1桁少ない。本屋大賞の正式名称は「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本 本屋大賞」だが、これでは「全国書店員が選んだ」とはいえまい。

 背景にあるのは、ノンフィクションというジャンルの不人気ぶりだろう。そしてノンフィクションが低調なのは、総合誌の休刊などで発表媒体が激減したこと。ノンフィクションは取材に時間とお金がかかり、単行本を書き下ろすのは難しい。〈雑誌が売れない→書く場と資金がない→面白い作品が出ない→本が売れない〉という悪循環に陥っている。

 ひところはネットが雑誌に代わる発表媒体になるのではという期待があったし、いまもネットサービスの「note(ノート)」等で有料記事配信をする人はいるが、紙の雑誌の代替にはなりえていない。AIを使って多言語で同時配信するなど、何か画期的なアイデアはないものか。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2023年6月20日号掲載

永江朗の出版業界事情 ノンフィクション低迷が止まらない

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