資源・エネルギー

電池のリユースは自動車業界の命綱 藤後精一

日産と住友商事が2018年に完成させた日本初のリチウムイオン電池リサイクル工場(福島県浪江町) Bloomberg
日産と住友商事が2018年に完成させた日本初のリチウムイオン電池リサイクル工場(福島県浪江町) Bloomberg

 電気自動車(EV)の中古車価格を維持するためにも自動車大手は電池の再利用やリサイクルに注目し始めている。

>>特集「電力が無料になる日」はこちら

 車載用電池を、発電が不安定な再生可能エネルギーで得た電力をためる蓄電池として有効活用しようとする取り組みは自動車メーカーも進めている。

 最も積極的なのが、量産型電気自動車「リーフ」を2010年12月に市場投入した日産自動車だ。リーフを発売する3カ月前の10年9月、日産は住友商事とともに、使用済みの車載用電池をリユース(再利用)・リセール(再販売)・再製品化(リサイクル)し、エネルギー貯蔵ソリューションとして利用するための合弁会社「フォーアールエナジー」を設立した。

 フォーアールエナジーがまず取り組んでいるのが回収した使用済み電池の劣化状況を診断する技術の開発だ。回収した車載用電池は、急速充電した回数や、走行頻度など、EVの使用方法に応じて性能が大きく左右される。

 一般的にはEVを新車で購入してから約10年程度が経過すると、電池容量が8割以下に減ってEVの航続距離が短くなるとされる。容量が8割以下だと自動車用電池としては使えないレベルになるが定置型蓄電池などの非車載用途なら十分な能力がある。それでも使用済み車載用電池がどの程度劣化しているのか短時間で評価する技術が確立できなければ、使用済み車載用電池の再利用は進まない。

 フォーアールエナジーは18年に開所した福島県浪江町の電池再生工場(浪江事業所)で、回収した使用済み車載用電池を車載用として再利用するか、定置型蓄電池に活用するかなどを判別している。リーフに搭載していた電池モジュールの劣化度合いを評価するのに、それ以前は16日間要していたが、浪江事業所では4時間以内に短縮できた。それでも工場の電池処理能力は年間3000台程度にとどまる。

トヨタは独自のシステム

 出遅れていたEV事業の巻き返しを狙うトヨタ自動車も、将来を見据えて、使用済み車載用電池の有効活用を検討している。18年に中部電力と電動車の駆動用電池を使って大規模蓄電池システムの構築と、電池材料をリサイクルする実証の実施で合意。容量が低下した車載用電池を多数組み合わせたシステムによって、電力が不安定な再エネによる需給調整への活用や、蓄電池を充放電することで再エネ利用による周波数変動、配電系統の電圧変動を抑制する。

 トヨタは22年10月に中部電力と東京電力の合弁会社JERAと共同で、車載用電池をダイレクトで接続できる大容量スイープ蓄電システムを構築、JERAの四日市火力発電所で電力系統に接続し、系統用蓄電池として充放電運転を開始した。異種であったり、容量の差が大きい使用済み車載用電池を混合した状態でも容量を使い切ることが可能なスイープ機能を搭載した。

 トヨタとJERAは20年代半ばに供給電力量約10万キロワット時(kWh)の導入を目指している。

 また、トヨタは東京電力ホールディングスと風力発電の運用を安定化するためにEV用電池を活用するシステムを開発し、今秋に実証実験を実施する。

未来を決める「循環モデル」

 自動車メーカーが使用済み車載用電池の定置式蓄電池などへの2次利用の確立を目指しているのは、EVの普及でリサイクルが難しくコストも高い使用済み電池が大量に廃棄されるのを防ぐだけが目的ではない。EVの普及にも影響するためだ。

 EVで先行した日産のリーフの中古車価格が低水準にあることが問題視されている。EVは長く乗れば乗るほど、駆動用電池が劣化し、航続距離が短くなるため、中古車としての価値が著しく毀損(きそん)する。

 EVは電池のサイズにもよるが、車両価格の2~3割を占めるとされているだけに、電池の劣化が中古車価格に反映される。日産は対策として使用済み電池を再生して有償で交換するプログラムを展開している。24kWhの再生電池は30万円で、新品の電池だと65万円だ。

 EVの中古車相場が低いと下取り価格も低いため、EVの新車購入が進まなくなる可能性が高い。使用済み車載用電池を定置型蓄電池向けなどに販売する循環モデルが確立できれば、EVの中古車価格の相場の支えになる可能性もある。

 使用済み車載用電池の再使用を確立することは、日本のEV市場の先行きにも影響する。

(藤後精一・経済ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2023年6月13日号掲載

電池のリユースは自動車業界の命綱=藤後精一

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事