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米大統領選2024を展望する三つのポイント 安井明彦
中国との対立や長期化するウクライナ情勢など課題山積の中、米国のリーダー選びが動き始めている。ポイントを確認する。
チェックすべきは「成長率」「リーダーシップ」「最高裁の動向」
米国で2024年の大統領選挙に向けた動きが本格化してきた。4月25日には民主党のバイデン大統領が再出馬を表明、対する共和党の指名候補争いではトランプ前大統領が返り咲きを狙う。前回20年と同じ顔触れになる雰囲気もある来年の選挙では、何に注目すべきなのか。三つのチェックポイントを紹介する。
「現職有利」の二つの条件
最初のチェックポイントは、投票が行われる24年の経済成長率だ。堅調な経済こそが、民主党のバイデン大統領が「現職有利」の伝統を生かす条件になる。米国の大統領選挙は、伝統的に現職に有利だ。バイデン氏に先立つ45代の大統領のうち、再選を目指して失敗した大統領は11人しかいない。過去のパターン通りであれば、24年の大統領選挙は、再選を目指すバイデン氏に有利なはずだ。
現職が再選を確実にするためには、二つの条件がある。第一に、党内の支持をまとめることだ。現職が有利である一因は、党内から異論が起こりにくく、指名候補を争う予備選挙で体力を温存できる点にある。実際に、再選に失敗した民主党のカーター元大統領や共和党のブッシュ(父)元大統領は、予備選挙で有力な対抗馬と争っている。バイデン氏の場合、予備選挙は無風となりそうで、第一の条件はクリアできそうだ。
もう一つの条件が、堅調な経済である。バイデン氏の支持率は40%台で低迷が続く。過去の選挙結果に基づくバージニア大学のモデルによれば、このまま支持率が回復しない場合には、24年第2四半期の成長率が1%台前半を確保することが再選の条件だという。
悩ましいのは、景気変動の波がどこにくるかである。足元の米国経済が底堅ければ、バイデン氏の再選には追い風にみえる。しかし、堅調な経済はインフレの終息が遅れるリスクと背中合わせだ。23年後半以降に利上げを迫られるような展開になれば、選挙への影響が大きい24年に景気が失速しかねない。
高齢懸念の実態
第二のチェックポイントは、バイデン氏がリーダーシップへの評価を高められるかだ。政権を率いてきた成果が実感されなければ、バイデン氏は現職有利の伝統を生かす条件を満たしたとしても、再選に失敗しかねない。
バイデン氏の再選への懸念材料としては、2期目の終了時には86歳となる高齢が指摘されやすい。米紙『ワシントン・ポスト』などが今年4月末から5月にかけて実施した世論調査でも、約7割がバイデン氏は「再選には高齢過ぎる」と答えており、メンタル面でのシャープさや体力面での懸念を指摘する回答も6割を超えている(図)。
もっとも、有権者は年齢だけで政治家を判断するわけではない。共和党で指名候補争いをリードするトランプ氏の場合、年齢はバイデン氏より4歳若いだけだが、同じ世論調査でも高齢を懸念する回答は4割台にとどまる。メンタルや体力を懸念する回答も相対的に少ないのが現実だ。
年齢に関するバイデン氏とトランプ氏への受け止め方の違いは、リーダーシップへの評価に理由がありそうだ。トランプ氏には、「強いリーダー」としてのイメージがあるからだ。
共和党の指名候補争いでは、フロリダ州のデサンティス知事がトランプ氏の有力な対抗馬とされている。毀誉褒貶(きよほうへん)の激しいトランプ氏に比べ、「バイデン氏に勝てるのは自分だ」というのがデサンティス氏の主張である。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』が今年4月に行った世論調査でも、共和党支持者の4割が「もっともバイデン氏に勝てる候補」にデサンティス氏を選び、3割だったトランプ氏を上回った。
しかし、共和党の支持者がトランプ氏を評価する決め手は、「勝てるかどうか」ではない。同じ世論調査では、「強いリーダーである」「恐れずに信念を貫く」といった点で、共和党の支持者はデサンティス氏よりトランプ氏をはるかに高く評価している。結果的に、トランプ氏を共和党の指名候補に選ぶとする回答が約5割に達し、2割強だったデサンティス氏を引き離している。
一方のバイデン氏は、これまで政権を率いてきた成果が実感として有権者に伝わっておらず、「何かをやってくれる政治家」という期待感が低いようだ。経済運営では、大規模なコロナ対策を皮切りに、インフラ投資を促進する法律などを実現してきたが、前述の『ワシントン・ポスト』などによる世論調査では、バイデン氏よりも現役時代のトランプ氏の経済運営に軍配を上げる回答が過半数を占めている。
社会問題では、バイデン氏は妊娠中絶の権利擁護や銃犯罪への批判を強めているものの、具体的な対策は講じられていない。むしろ移民急増への対応が遅れるなど、バイデン氏のリーダーシップに対しては、民主党の支持者にも不満がくすぶっている。
バイデン氏の陣営は、州ごとにインフラ投資の恩恵を宣伝したり、航空会社の運航キャンセルに関する費用補償の義務付けを発表したりするなど、政策規模の大小を問わず、有権者の実感に届く成果を伝えようと懸命だ。リーダーシップへの評価の低さに対する危機感の表れだろう。
22年の再現も
最後のチェックポイントは、最高裁判所の動向である。22年の議会中間選挙では、最高裁が妊娠中絶の権利を認めてきた判決を覆したことで、民主党支持者の危機感が高まり、民主党が善戦する原動力となった。
来年にかけて最高裁は、規制に関する政府の権限を大きく制限する判決が出かねない案件を審理する予定だ。規制を駆使した「大きな政府」を好む民主党の支持者が刺激されれば、22年の再現になるかもしれない。
議事堂占拠事件を招いた前回の大統領選挙のような混乱が繰り返された場合にも、最高裁の動向がカギになりかねない。接戦となった00年の大統領選挙では最高裁の判断が勝者を左右したが、ギャロップ社が22年6月に行った世論調査では、最高裁を信頼する割合が25%と、00年当時のほぼ半分に低下している。最高裁の判断に世論が納得しないなど、司法が混乱に拍車をかけるリスクは意識しておきたい。
(安井明彦・みずほリサーチ&テクノロジー調査部長)
週刊エコノミスト2023年6月13日号掲載
米国大統領選挙の行方を占う景気、リーダーシップ、最高裁=安井明彦