伝統から絵画を解き放つ“色彩の魔術師”の真骨頂 石川健次
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美術 マティス展
アンリ・マティス(1869~1954年)の名は、鮮やかな色彩や大胆な筆づかいを特徴とするフォーヴィスムの創始者として、20世紀を代表するフランスの画家として広く知られているだろう。だが、マティスが画家としてスタートしたのは意外にもそう早くない。虫垂炎を患い、「長期療養中の暇つぶしにと母から絵具箱を贈られたことをきっかけ」(本展図録)に絵を描き始めたのは21歳のときだ。
フォーヴィスムの傑作はもちろん、初めて国家に買い上げられ、世に知られるきっかけにもなった20代後半の《読書する女性》(1895年)や、絵具を塗った紙から形を切り抜いて構成する、いわばハサミで描く晩年の切り紙絵まで、有数のマティス・コレクションを誇るパリのポンピドゥー・センター所蔵の約150点でその全貌に迫るのが本展だ。小さな色の点を並べる点描主義で知られる新印象派の影響を受けた初期の傑作で初来日の《豪奢、静寂、逸楽》(1904年)など時々の代表作がそろう。
1939年の第二次世界大戦勃発時には齢(よわい)70近かったマティスは、空爆を避けてニース近郊のヴァンスに移り住んだ。41年には重病を患い、2年にわたっておおむね寝たきりで療養後、46年から48年にかけて「自身最後となる油絵連作」(本展図録)に挑んだ。「ヴァンス室内画」と呼ばれる傑作群だ。
この「ヴァンス室内画」のシリーズから第1作の《黄色と青の室内》(46年)など幾つかが本展に並んでいる。図版に挙げた《赤の大きな室内》(48年)は、シリーズを…
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週刊エコノミスト
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