懸念材料の多いドル決済システム 人民元は代替になれるか 鈴木洋之
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最近、ワシントンDCでは、米ドル覇権の継続を不安視する議論が目に付くようになった。無理もない。ロシアのウクライナ侵攻後、米国はロシア関連の取引をターゲットにした金融制裁を強めているが、広範なドル決済システムを前提にした金融制裁は、今後も米国の経済安全保障上の大きな武器になるとみられている。米国との外交関係に懸念を持つ国にとっては、ドルに依存しない決済ルートの確保は国家安全保障上の重要課題となっている。
ドル依存軽減に最も真剣に取り組んでいるのは中国だ。3期目に入った習近平政権は、2021年に発表したグローバル開発イニシアチブ(GDI)を巨大経済圏構想「一帯一路」と融合させながら、人民元建ての経済取引を、グローバルな開発金融の戦略に組み込んでいる。今年3月の中露首脳会談では、両国間の貿易で人民元を広範に活用することが合意された。金融制裁に苦しむプーチン政権にとって脱ドル化は死活問題で、人民元は救世主ということだろう。
米金融引き締めも影響
中国の動きはこれにとどまらない。中国は、3月にサウジアラビアとイランの関係修復を仲介したが、ここでも原油取引を人民元で決済する構想を進め、中国輸出入銀行がサウジアラビア国立銀行向けに初の人民元建て融資を実施した。さらに4月、ブラジルのルラ大統領の北京訪問の際、金融分野で中国・ブラジル間の貿易での現地通貨決済の促進が合意され、これを受け、中国工商銀行がブラジルで初の人民元決済を行ったと報じられている。
米国の急速な金融引き締めが、新興・途上国の経済に大きな打撃を与えていることも、中国と資源やコモディティーの貿易関係を持つ「グローバルサウス」諸国が脱ドル化を模索する一因になっている。中国のGDIは、途上国間の支援「南南協力」も含めた開発金融戦略で、従来の西側主導の枠組みへのアンチテーゼの意味合いも持つ。ある意味で、中国独自の「グローバルサウス」…
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週刊エコノミスト
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