国際・政治東奔政走

自公の亀裂招いた目算狂い 政界再編の導火線に発展も 伊藤智永

会談に臨む(右から)自民党の高木毅国対委員長、茂樹敏充幹事長、公明党の石井啓一幹事長、佐藤茂樹国対委員長(5月31日)
会談に臨む(右から)自民党の高木毅国対委員長、茂樹敏充幹事長、公明党の石井啓一幹事長、佐藤茂樹国対委員長(5月31日)

 首都・東京で自公連立「解消」の激震が政界に走った。「信頼関係は地に落ちた。東京での自公間の協力関係は解消する」。公明党の石井啓一幹事長が、茂木敏充自民党幹事長との会談決裂後、記者団に語った「決別宣言」は、日ごろ沈着冷静と定評ある人だけに、表現のきつさが際立つ。

事実上の連立一部解消

 衆院小選挙区定数の「10増10減」に伴い、公明党は新設された東京28区(練馬区東部)と29区(荒川区・足立区西部)に独自候補を立てると主張し、自民党と折衝していたが、自民党が拒否。怒った公明党は、28区での擁立を断念する代わり、すでに候補者を公認している29区では自民党の推薦を求めず、東京の他の全小選挙区で自民党候補を推薦しないと通告した。国政以外の都議選や市区長選などでも協力をやめ、都議会における自公協力関係も解消するというから、東京都に限るとはいえ連立の一部解消に他ならない。

「欲をかきすぎ」「いつもの脅しだ」「やり方が強引すぎる」。自民党からの批判に公明党は猛反発。機関紙や西田実仁選対委員長のツイッター投稿で交渉経緯を詳しく明かし、「協力関係が対等でない。公党間の約束を破られた。不誠実なのはどっちだ」などと非難した。落としどころを見据えた駆け引きの域を外れている。

 公明党が攻勢に出る背景には、支持母体・創価学会の組織力低下に歯止めがかからず、日本維新の会が勢力を拡大してきたことへの危機感がある。これまで大阪府・市政で維新に協力する見返りに、大阪府と兵庫県の6小選挙区で議席を守ってきたが、もはや公明党の協力を必要としない維新に自前の候補を立てられると、議席減は確実。比例代表の得票が頭打ちなので、新たに他県で小選挙区議席を確保しなければならない。

 20年を超える自公連立関係への疲れと不満もある。選挙で自民党にさんざん尽くしてきた自負がある一方、特に安全保障政策で何度も妥協を重ねてきた。なのに岸田文雄政権は防衛増税や敵基地攻撃能力で安倍晋三政権以上の譲歩を迫る。しかも、今なお学会内に抵抗感の強い改憲にも前のめりとあって、積年の鬱憤が定数是正の候補者調整を機に噴き出した。

 そうした事情があるにしても、今回の亀裂が生じたのは、双方の立役者たちに目算狂いがあったからに違いない。公明党に強気の戦術を差配しているのが、「創価学会政治部長」の異名を持つ佐藤浩副会長であることは衆目が一致するところだ。かつてはあれほど神経過敏だった「政教分離」原則など知ったものかといわんばかりに、自ら政府・自民党の要人と精力的に接触し、強硬姿勢で要求を押し通す剛腕として知られる。安倍政権時代は、菅義偉官房長官(当時)との間で結んだパイプが、佐藤氏の権力を伝説化した。

 ややこしいのは佐藤氏が、信任を得る原田稔創価学会会長の威光を背に、次から次へかなり無理な選挙戦術を指示するので、逆らえない公明党内にも反感がたまって…

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週刊エコノミスト

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