資源・エネルギー

外資系太陽光パネルメーカーが日本の住宅市場で攻勢(編集部)

太陽光システムの展示会では、外資系メーカーに勢い(3月に東京ビッグサイト〈東京・有明〉で開かれたPV EXPO)
太陽光システムの展示会では、外資系メーカーに勢い(3月に東京ビッグサイト〈東京・有明〉で開かれたPV EXPO)

 外資系メーカーが新型パネルや蓄電システムの導入で、国内市場の開拓に力を入れている。

太陽光パネルや蓄電池で新製品

 外資系太陽光パネルメーカーが日本の住宅市場で存在感を増している。大手電力7社が6月から電気料金を16~40%の幅で引き上げたことや、東京都などの自治体が家庭への太陽光の導入に補助金を積み増していることなどを商機ととらえ、太陽光パネルや蓄電池で新製品を相次いで投入している。日本のメーカーがパネルの生産から撤退する中、自社で生産し、パネル調達やコスト面で競争力があることも強みだ。

 住宅用省エネ建材の情報誌である『月刊スマートハウス』によると、2022年の国内の住宅用太陽光パネル市場で、長州産業、パナソニックなどの国内大手に次いで、カナディアン・ソーラー、ハンファ、サンテックパワーの3社が10%前後のシェアを占めている。カナディアンとサンテックは中国系、ハンファは韓国系だ。

デザイン重視の蓄電システム

 カナディアン・ソーラーは、カナダに本社がある太陽光パネルメーカーで、01年に中国系のショーン・クー会長兼最高経営責任者(CEO)が設立した。全世界に1万4000人の従業員がおり、北米、欧州、中国やインド、豪州など世界各地で業務用・家庭用にパネルを販売している。日本法人のカナディアン・ソーラー・ジャパンは09年に設立され、国内でこれまでに個人向け住宅18万棟に太陽光パネルを設置してきた。

 パネルの生産は中国だが、欧米に比べ屋根の小さい日本市場向けに、3種類の大きさのパネルを用意した。カナディアン・ソーラー・ジャパンの山本豊会長は、「この三つのパネルの組み合わせにより、いかなるサイズの屋根にも効率よく、より多くの枚数を搭載できる。小さな屋根でも発電効率が飛躍的に高まる」と語る。和瓦からスレート屋根まで、日本のさまざまな屋根に対応した架台や設置金具を用意しているのも強みだ。

カナディアン・ソーラー・ジャパンは、デザインに特徴がある蓄電池システムを7月から発売(3月のPV EXPO)
カナディアン・ソーラー・ジャパンは、デザインに特徴がある蓄電池システムを7月から発売(3月のPV EXPO)

 蓄電池では7月から「EP CUBE(イーピーキューブ)」と呼ばれる家庭用の蓄電池システムを日本で発売する。「アピールポイントは見た目の美しさ」(山本会長)といい、デザイン性の高さが特徴だ。機能面でも従来製品より性能を高めた。蓄電池は1個当たりの容量が3.3キロワット時のブロックから成り、積み上げることで、6.6~13.3キロワット時まで容量を増やすことができる。三元系リチウムイオン電池に比べて安全性が高いといわれるリン酸鉄系リチウムイオン電池を使っている。

 蓄電池の上に一体型のパワーコンディショナー(パワコン:パネルで作られた直流の電気を家庭で使われている交流に変える装置)を載せている。蓄電池とパワコンが一体の設計なので工務店の施工性も優れているという。蓄電池の操作は、スマホのアプリで行う。

 ハンファジャパン(旧社名:ハンファQセルズジャパン)は、韓国の大手財閥ハンファグループの日本法人として、12年から日本で住宅向けに太陽光パネルを販売している。ハンファグループは12年にドイツの太陽光パネルメーカー「Qセルズ」を買収し、同社の開発・製造ノウハウを吸収しながら、太陽光パネル事業をグローバルに拡大してきた。

ドイツ基準の品質管理

 ハンファジャパンの李泰基(リテギ)PVシステム事業部統括部長は、製品の特徴について、「ドイツのように、日照度合いが低いところでも発電できることが強みで、世界的にもパネルの発電量はトップクラスとの評価だ。ドイツの認証機関であるテュフラインランドの厳しい認証を受け、品質面も高い水準にある」と語る。

 パネルの開発はドイツ、生産は米国、マレーシア、韓国、中国の4拠点で行っている。これまで日本市場で12万棟の販売実績があるという。パネルは日本向けに二つのサイズを用意し、その組み合わせにより、日本の狭小住宅の屋根でも高い発電量を確保できるようにした。この夏には、より発電効率を高めたモデルを投入する。

 また、「Q.SUPREME(キューシュプリーム)」という上位の太陽光発電システムを21年から販売している。これは、太陽光パネルに加えパワコンなども25年間の保証をするほか、パネル一枚一枚に出力を制御する部品を取り付けることで、太陽光システム全体としての出力を高めるのが特徴だ。通常の太陽光システムは、パネルを直列でつなげるため、日陰などで一部のパネルの出力が落ちると、全体の出力も落ちてしまう。しかし、Q.SUPREMEでは、例えば1枚の出力が90%に落ちても、残りは100%を維持できるため、システム合計で高い出力を確保できる。

サンテックパワージャパンは、長野県佐久市に研究開発・サポート拠点「長野テクニカルサポートセンター」を持つ 同社提供
サンテックパワージャパンは、長野県佐久市に研究開発・サポート拠点「長野テクニカルサポートセンター」を持つ 同社提供

 サンテックパワージャパンは、1967年に創業し、81年から太陽光パネルの販売を開始した日本のMSK社を前身とする。MSKは06年に中国のサンテックパワーグループの傘下に入り、09年に現社名に変更した。元々は日本のメーカーなので、日本での販売実績は長く、長野県佐久市に研究開発・サポート拠点「長野テクニカルサポートセンター」を持つのが特徴だ。

長野に開発・サポート体制

 パネル自体は現在、中国で製造しているが、日本の住宅向けパネルについては、長野で日本人の技術陣が開発、設計から評価までを行っている。パネルは2種類のサイズを用意し、その組み合わせで、日本の狭い屋根で効率よくパネルを配置できるようにした。「最新の製品では、パネルの重量を20%以上軽減しており、建物側に負担をかけないよう配慮した」(長野テクニカルサポートセンターの石川貴浩・技術部部長)という。

 日本での開発、サポート体制が充実していることが評価され、ミサワホーム、旭化成ホームズ、トヨタホーム、アキュラホームの新築住宅向けにパネルを提供している。太陽光パネルの販売実績は、22年年間で7000棟前後という。22年から「サンクリスタル」のブランド名で室内にも置ける住宅用の蓄電システムを発売し、年々高まる家庭向けの蓄電ニーズにも応えている。海外で製造される太陽光パネルが年々、大型化し、屋根の狭い日本向けのパネルの調達が難しくなっているほか、円安が進行していることを受け、今後は日本向けパネルを日本国内で生産することも検討している。

 3社は太陽光の発電事業者が、住宅所有者に代わり、太陽光システムの設備費用を負担する「太陽光設備ゼロ円」ビジネス向けにも太陽光パネルやシステムを提供しており、それも、日本での販売拡大につながっている。

(稲留正英・編集部)


週刊エコノミスト2023年6月20日号掲載

太陽光発電 外資系が国内住宅市場で攻勢 パネルの自社生産を強みに=稲留正英

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