溝広がる中国の言論 「G7は傲慢」でウクライナの戦火は「米国があおる」 河津啓介
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筆者が2年ぶりに北京に赴任すると、メディアやインターネット上で、日本とは大きく異なる世界像が描かれていることに戸惑いを覚えた。以前から情報統制によって独自の言論空間を形成していたが、米中対立やロシアのウクライナ侵攻によって、西側諸国との溝がさらに広がったようだ。
その実例として、広島市で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)に関する中国の論調を紹介したい。
「偽物の多国間主義」。そう痛烈に批判したのは中国紙『環球時報』の社説(5月19日)だ。習近平指導部が同じ時期に自国で開催した「中国・中央アジアサミット」こそ、相互尊重の精神に基づく「本物」だと主張。G7の枠組みが「上から目線の帝国の傲慢さ、ワシントン独尊の利益体系」の表れであると酷評した。
今回のG7首脳宣言は、決して対中批判一辺倒だったわけではない。海洋進出や人権問題で注文をつけながら、中国に「建設的かつ安定した関係」を呼びかけてバランスに配慮した。経済分野でも、中国の排除を意味する「デカップリング」ではなく、過度な依存を避ける「デリスキング」を唱えた。
こうした前向きなシグナルについても、中国側は「米欧の間で温度差があり、米国が妥協せざるを得なくなっただけだ」(環球時報)と否定的な見方を伝えた。
国営新華社通信は5月25日から3日間連続で対米批判の論評を掲載し、「『デリスキング』と言葉を柔らかくしても、本質的には中国を抑圧しようとしている」と不信感をあらわにした。
欧米からの「債務のわな」を巡る対中批判への反論もあった。共産党機関紙『人民日報海外版』(5月30日)は「G7は途上国への『債務』をいつ返すのか」と題するコラムを掲載した。G7各国が途上国にインフラ整備や気候変動対策での巨額支援を約束しながら「絵に描いた餅となり、実現していない」と主張。「コロナ禍の発生後、米国は急激な利上げを続け、途上国は貨幣価値下落と…
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週刊エコノミスト
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