銀行が競う新NISAキャンペーン 口座開設で現金進呈のメガも 大山弘子
2024年から始まる新NISA(少額投資非課税制度)。証券会社に口座数で劣る銀行が、巻き返しに力を入れている。
東京都に住む50代の会社員、ユミコさんは最近、亡くなった父親の遺産約1500万円を相続し、銀行の普通預金に預けた。今春、その銀行から「NISA(少額投資非課税制度)を始めませんか」と勧誘の電話がかかってきた。
「すでにネット証券でNISA口座の開設手続きをしていたので断った。ところが、後日、銀行から『せめて定期預金にしないか』と連絡があったので、1000万円を定期預金に移し替えた」(ユミコさん)
東京都の40代会社員、トシユキさんも同じ頃、亡父の相続手続きをするため、銀行支店に出向いた。「NISA口座開設のキャンペーン中」と案内を受けたが、「うまい話には裏があるはず」と思って断った。
埼玉県の50代自営業、ヨウコさんは5月、近所の銀行支店に出向いた。順番を待っている間、NISAのパンフレットを何気なく手に取ると、カウンターの奥から職員が名刺を手に駆け寄ってきた。
24年から大幅拡充
あるファイナンシャルプランナーは、資産運用に興味のなかった知人から「NISAを始めたほうがいいのか」と聞かれることが急に増えたと感じている。理由を尋ねると、銀行の「NISAキャンペーン」を耳にしたという答えが多いという。
NISAを簡単に説明すると、株式や投資信託などの値上がり益や配当・分配金が非課税になるという制度だ。2024年からの「新NISA」は現行制度より優遇内容が大幅に拡充する。
上場株式や投信に投資できる「一般NISA」の投資枠上限は、現行制度が年120万円、24年からは年240万円。投信に積み立て投資できる「つみたてNISA」の投資枠上限は現行制度が年40万円、24年からは年120万円へと大きく増える。現行制度は非課税になる期間に制限を設けているが、24年からは無期限になる。
NISAを利用しない場合は株式や投信の値上がり益や配当・分配金に約20%の税がかかる。つまり、リターンがある場合、NISAを利用すればだいぶ得することになるのだ。22年12月、新NISAの概要が決まってから、投資に関心がある人たちが色めき立っているのも無理はない。
NISAを利用するには証券会社か銀行や信用金庫などの金融機関に専用の口座を開設する必要がある。1人当たり口座を1件しか持てない。ある会社にいったんNISA口座を開設すると、他の会社に変えるのは面倒と感じるだろう。新NISAのスタートまで半年を切った今、銀行がNISA口座の開設に向けて勧誘に力を入れる理由もこの辺にありそうだ。
図は証券会社と銀行など金融機関のNISA口座数を比較したものだ。22年末現在の口座数は1804万件にのぼり、証券会社は全体の65%を占める1179万件、銀行など金融機関は35%の625万件だ。銀行は証券会社に大きく水をあけられている。
理由は明白だろう。銀行など金融機関はNISA対象商品のうち株式を扱っておらず、投信しか販売できない。「つみたてNISA」の対象となる投信の種類も、証券会社より少ないのが一般的だ。証券会社に口座を開設すれば株式も投信も購入できる。結局、NISAに関心がある人々は選択肢がより多い証券会社を選んでいるというわけだ。
とはいえ、銀行にもメリットがあるはずだ。まずは慣れ親しんだ支店で行員に対面で相談できることだろう。投資経験に乏しい人や「株式投資はしたくない」と決めている人は、取引銀行にNISA口座を開くのが安心かもしれない。
横浜銀行は「2130円」
銀行はどんなキャンペーンをしているのか。主な銀行が展開しているキャンペーンの例を表にまとめた。三菱UFJ銀行はインターネットバンキングを使ってNISA口座を開設した人に現金1000円を進呈する。さらに、NISA口座で投信の積み立てを新規に申し込み、申し込みから2カ月後の月末までに3万円以上購入した人に1000円プレゼントする(1回限り)。
横浜銀行は6月30日までにNISA口座を開設し、普通預金口座の残高が7月末時点で5万円以上ある場合、2130円を進呈する。半端な金額は「NISA」のごろ合わせだという。
最後にNISA口座の開設先を変更する手順について触れておこう。「今は証券会社に口座があるが、銀行に変えたい」「今は銀行に口座があり、別の銀行に変えたい」という人は年1回だけ変更できる。変更したい年の前年10月1日から変更したい年の9月30日の間に手続きを完了する必要がある。
例えば、今年中に口座の開設先を変更したいなら、9月30日までに手続きを完了すればいい。ただし、今年1月1日~9月30日にNISA口座で1回でも買い付けをした場合、今年中の変更はできないことになっている。
また、開設先を変更する場合、変更前の口座で買い付けた金融商品を変更後の口座には移管できないことになっている。先に触れた通り、24年からNISAは大きく変わる。それに伴って、現行のNISA口座で買い付けた金融商品は新NISAの口座に移管することもできない。もちろん現行のNISA口座で買い付けた金融商品は非課税期間が終わるまで非課税のメリットを受けられる。
個人にとって、銀行の金利は極端に低いままだ。インフレが今のペースで続けば、お金の価値はますます目減りしてしまう。お金を守るには、ある程度のリスクを取ってインフレに負けない資産に投資することを検討してもいいだろう。その際、値上がり益や配当・分配金が非課税になるNISAを使わない手はない。
(大山弘子・マネーライター)
週刊エコノミスト2023年6月27日・7月4日合併号掲載
逆風の銀行 新NISA 銀行が競うキャンペーン メガも口座開設で現金進呈=大山弘子