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経済・企業 円安インフレ襲来

止まらない食品値上げ 原料・電気・人件費増の三重苦 飯島大介

今夏以降もパンや乳製品などの値上げが控えている=東京都内のスーパーで
今夏以降もパンや乳製品などの値上げが控えている=東京都内のスーパーで

 インフレによる食品の値上げが家計を直撃している。消費者にとっては「節約志向」が一層強まりそうだ。

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 食品の値上げが止まらない。全国の主要な飲食料品メーカー195社を対象に調査した2023年の値上げ品目数は、5月末時点で2万5106品目に上った。22年の2万5768品目を大幅に上回るペースだ(図1)。この勢いが続けば、値上げ品目数は7月中に3万品目を超え、23年通年では前年を大きく上回る3.5万〜4万品目に到達するとみられる。

 23年の値上げは、昨年10月のような1カ月当たり約8000品目という記録的な値上げラッシュにはならないものの、1カ月当たり3000品目超のラッシュが常態化しているのが特徴だ。今夏以降も値上げは当面続く見通しで、7月以降の値上げは既に8000品目超で予定されている。

ガリガリ君も

 具体的には何が値上がりするのか。7月には朝食の定番・パンが一斉値上げとなる。製パン大手の山崎製パンは、7月1日出荷分から主力商品の「ロイヤルブレッド」や「ダブルソフト」などの食パン・菓子パン類を平均7%値上げする。フジパンや敷島製パンなど同業各社も食パンなどの値上げを予定しており、食パン1斤当たりの店頭価格は税込みで200円を超える可能性がある。

 8月には牛乳などの乳製品が一斉値上げされる。「明治ブルガリアヨーグルトLB81」400グラムの希望小売価格は税別280円から285円に。森永乳業の「ビヒダス プレーンヨーグルト」400グラムも同240円から250円になる。9月にはアイス類やしょうゆ、菓子類が値上げとなり、赤城乳業「ガリガリ君ソーダ」マルチタイプやロッテ「コアラのマーチ」などが対象だ。10月には酒類やみりんなど調味料が、宝酒造や月桂冠など大手を中心に一斉値上げとなる。

 注目すべきは、大手の越後製菓やサトウ食品を中心に、パックご飯や包装餅が7月以降、値上げされる点だ。原料のコメなどは国産品が多く、他食品に比べて値上げ圧力に比較的強いと思われてきた。しかし、電気代などのエネルギー価格やパック包装資材などの値上がりのため、製品価格の改定を余儀なくされた。

 なぜ値上げが続くのか。22年の値上げ要因は、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した小麦・食用油や原油価格の急騰のほか、1ドル=150円まで進行した円安が主な要因だった。しかし、一部の原材料価格や原油相場は反転下落の傾向もあり、円相場も1ドル=130円前後で落ち着いた。そのため、昨年末には「23年春をピークに食品値上げは落ち着くのでは」とみる動きも少なくなかった。

 ただ、各商品の「値上げ理由」をみると、値上げの背中を押している新たな要因が浮かび上がってくる。23年以降の「値上げ理由」をみると、ほとんどすべての食品が原材料高を要因とし、物流費や包装資材の値上がりによる値上げの割合も多い。注目すべきはエネルギー価格の上昇を理由にした値上げだ。原油代などがほとんどを占める中、「電気・ガス代」の存在感が増している(図2)。23年の値上げ品目総数に占める割合は1779品目・約7%に上り、月を追うごとにその割合は増えている。

消費者の「値上げ疲れ」

 特に7月は値上げ予定の約3500品目のうち、2割超で電気代上昇が要因となっている。オーブンでの焼き上げや発酵などの工程で大量の電力を消費するパン製品、加工食品や乳製品など、幅広い食品分野で電気代上昇の影響を受けている。22年にはあまり見られなかった「人件費増」を理由とした値上げも徐々に広まっている。いずれも、22年中に行われた値上げでは前提条件に含まれておらず、企業側でも新たなコストアップとして受け止められたことで、原材料価格の高止まりに合わせて引き続き値上げを実施せざるを得ない要因となった。

 今後の値上げの動きはどうなるのか。食品分野によって濃淡はあるものの、全体では年後半にかけて徐々に値上げは収束する可能性があり、価格の据え置きや値下げといった動きが広がるのではないかと、現時点では見ている。

 大きく影響しそうなのは、消費者の「値上げに対するマインドの変化」だ。値上げが本格化した昨年5月ごろは値上げを「一時的なもの」と捉え、我慢する消費者も少なくなかった。しかし、23年に入っても値上げは止まらず、電気代などエネルギー支出の負担もさらに増した。内閣府の消費動向調査では、1年後も物価上昇が続くと予想する割合は9割を超え、物価への将来不安は増している。「節約志向」「値上げ疲れ」が広まり、物価高の勢いに比べて食費支出は鈍化傾向にある。

低価格品が受け皿

 節約志向の強まりを受け、食品メーカーでは価格転嫁の方針を修正する動きも出始めた。値上げ効果で前期決算は増収にこそなったものの、減益や赤字となった企業が相次いだように、コスト増を全て価格に反映できたわけではない。ただ、「新たなコスト上昇分はこれまでの値上げ分で吸収したい」などといった、値上げにやや後ろ向きの姿勢も出てきた。

 低価格品のラインアップを充実する動きも目立つ。例えば、伊藤ハムは鶏肉・豚肉を使用した割安ブランド「Silkウインナー」を22年9月に発売した。山崎製パンも、主力の「ロイヤルブレッド」より安い「スイートブレッド」を展開し、「節約志向の客に好評」(都内スーパー)だという。いずれも主力ブランドより価格が3割ほど安く、節約志向が強まる消費者の「受け皿」となっている。

 冷凍食品や肉製品など複数回の値上げや、値上がり幅が急だった商品では販売量が鈍化したものもあり、「これ以上の値上げはシェアを奪われかねない」「売れ筋商品の値上げは購入量の減少につながる」などの危機感もある。昨年のような「強気で積極的な価格転嫁策」は取りづらいのが実情だ。

 ただ、電気代や物流費などコスト増は落ち着いたわけではなく、値上げ圧力そのものは完全に沈静化していない。そうした中での価格据え置きや値下げは、値上げに疲れた消費者にはうれしい一方、ようやく回り始めた価格転嫁サイクルから取り残され、再びデフレに陥る可能性もある。「価格設定をどうするか」──。各メーカーにとっては、昨年以上に悩む局面が増えそうだ。

(飯島大介・帝国データバンク情報統括部副係長)


週刊エコノミスト2023年7月11日号掲載

円安インフレ 止まらない食品値上げ 今夏にも3万品目超えへ 原料、電気、人件費増の三重苦=飯島大介

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