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国際・政治 ウィーン再発見

⑤ケットナー・ウィーン市観光局長「ウィーン市の住みやすさは、観光客にとっても『理想的な目的地』の条件となる」

「ウィーン市の住みやすさは、観光客にとっても魅力的なインフラ」ノルベルト・ケットナー・ウィーン市観光局長(市観光局提供)
「ウィーン市の住みやすさは、観光客にとっても魅力的なインフラ」ノルベルト・ケットナー・ウィーン市観光局長(市観光局提供)

「ウィーン万博150周年」をテーマに観光誘致を進めるウィーン市のノルベルト・ケットナー観光局長に、同市の観光戦略を聞いた。

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-- サステナビリティー(持続可能性)は「魅力的な観光地」として選ばれるための主要な前提条件になりつつあります。ウィーン市の取り組みは。

■ケットナー氏 2019年策定の市観光局「ビジター経済戦略」において、「持続可能性」は環境保護、経済、そして、社会文化の三つの側面から定義されています。これらに基づき、我々の行動を規定するアジェンダを作成しています。

 まずは、「質の高い観光」です。そして、すべての点で「一番」になること。私たちは、地域住民の負担になるのではなく、ウィーンに溶け込み、文化的、歴史的遺産を堪能し、積極的に体験したいという観光客を惹きつけたいと考えています。

 もう一つの重要な点は、そこで暮らす住民にとって重要なインフラなどは、最終的には訪問者にとっても魅力的であるということです。ウィーンはこの点でも、持続可能性というテーマに沿った素晴らしいアセットを有しています。

 例えば、ポンプを必要とせず、自然な勾配を利用してアルプスからウィーン市内まで流れてくる水道水、市の面積の53%以上を占める緑地です。そして忘れてはいけないのは、優れた公共交通システム。ウィーンはあらゆる観光スポットに公共交通機関でアクセスできます。ウィーンには「ラストワンマイル」という言葉は存在しません。

「シティカード」で環境を意識

-- ウィーン市の公共交通機関が乗り放題で、観光名所やホテル、レストランなどの料金も割引される「ウィーン・シティカード」がオーストリアの「エコラベル」認定を受けました。

■エコラベルは、オーストリアの環境省の取り組みとして1990年に導入されました。これは、オーストリアが国として承認した唯一の環境認定シールです。シティカードのエコラベル認証の取得は、「ビジター経済戦略」の持続可能性の側面を、マーケティングに落とし込むための必然的なステップです。観光に伴い発生する「環境フットプリント(二酸化炭素など人間の活動によって発生する環境負荷要素)」の多寡は、観光客が滞在先を選ぶ際の大きなポイントです。

「ウィーン・シティカードにより持続可能な観光が可能に」ノルベルト・ケットナー氏(市観光局提供)
「ウィーン・シティカードにより持続可能な観光が可能に」ノルベルト・ケットナー氏(市観光局提供)

 飛行場から宿泊先までの交通、目的地までの移動、観光サービスの利用に至るまで、ウィーンの観光産業は気候変動対策に強い力点を置いています。エコラベル認証の取得により、ウィーン・シティカードは気候変動対策に、より実効性を伴うものとなったのです。

-- パンデミックが終息した今、世界の観光地では観光客の爆発的な増加が地域社会を圧迫する「オーバーツーリズム」が懸念されています。地域住民と観光業が共存するためのウィーンの取り組みは。

■ウィーンには現在、オーバーツーリズムの問題はありません。しかし、私たちは、非常に真剣に議論しています。 市の公認DMMO(観光地マーケティング経営組織。日本のDMO<観光地域づくり法人>に相当)として、付加価値を生み、地域住民から支持される持続可能な観光産業の成長へ取り組んでいます。成長に代償が伴わず、持続可能で、価値を創造し、地域住民のニーズを満たした観光です。

 ウィーン市民の10人中9人は、観光産業に前向きな態度を示しています。2014年に策定された「戦略2020」、現在の「ビジター経済戦略」でも、「市が観光のために何ができるかではなく、観光が市のために何ができるかを問うてください」が主題となっています。ウィーンの文化財や市のインフラは、観光なしではとても維持できません。

大都市なのに喧騒と無縁

-- パリ、ローマ、ロンドンなどの欧州の他の観光都市と比較したウィーンの特徴と利点は何でしょうか。

■英エコノミスト誌グループの「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)」が最近発表したレポートによると、ウィーンは再び「世界で最も住みやすい都市」に選ばれました。これは、英生活スタイル雑誌「モノクル」の「生活の質調査7・8月号」で「世界で最も住みやすい都市」で初のナンバーワンの座を獲得したことに続きました。

 すべての素晴らしい体験は都市から始まります。そして、住民にとって住みやすい都市だけが、観光客にとっても魅力的な都市になれるのです。

1873年の万博会場の跡地に立つプラターのウィーン経済大学で、ノルベルト・ケットナー氏(市観光局提供)
1873年の万博会場の跡地に立つプラターのウィーン経済大学で、ノルベルト・ケットナー氏(市観光局提供)

 ハプスブルク王朝の荘厳な建築、息をのむ景観、豊かな文化、持続可能な都市開発への取り組みを通じ、ウィーンはこの評価を得ています。非常に優れたインフラ、それと、同様に優れた医療、教育、安全対策によりウィーンは地域住人にとって理想的な家であるだけでなく、旅行者にとっても理想的な目的地になっているのです。

 さらに、ウィーンは大都市のあらゆる利点を完璧に備えているにも関わらず、都会の喧騒とは無縁であることを付け加えなければなりません。ウィーンの人口は約200万人ですが、400~500万人の大都市と同様の広範囲に及ぶ文化的なオファーを提供しているのです。人口密度の低さと文化的な質の高さの両立はウィーンならではです。

(稲留正英・編集部)

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