経済・企業

株主総会は資本主義と民主主義が交わる場 法人の“人となり”が一目瞭然 小笹俊一

株主総会は会社の本音が聞ける場所。参加をしないのは損だ。写真は週末開催で人気のマネックスグループ株主総会(筆者提供)
株主総会は会社の本音が聞ける場所。参加をしないのは損だ。写真は週末開催で人気のマネックスグループ株主総会(筆者提供)

 株主総会は会社のカルチャーや本音を知る好機だ。参加してはじめて分かることも多い。

豪快な「あいさつ」から試食会まで

 今年も3月決算企業の株主総会が集中する6月が終わった。皆さん、総会に足を運ばれただろうか。残念ながらほとんどの方は、今年も参加する機会はなかっただろう。それもそのはず、上場企業の総会の約6割は、6月開催で、なかでも下旬の平日集中日(今年は29日)に開かれる。しかもそのうちほとんど全ては、午前中の開催。これでは企業に「来ないで」と言われているようもので、ほとんどの株主は総会に参加し会場で議決権を行使することができない。

 株式会社の最高意思決定機関である株主総会が、ここまでないがしろにされていていいのか。そんな素朴な疑問から、全国塾生約1300人の複眼経済塾では、塾生や講師が企業の真の姿を見るために、積極的に株主総会に参加している。

 その結果、すべての役員と多くの社員が運営し、社長が議長を務めることが多い株主総会に出席すれば、法人格という人格をもつ会社の人となりが肌感覚で見えてくることに確信を持つようになった。

 例えば、横浜家系ラーメンで知られるギフトホールディングスの株主総会は、最初と最後に「分離礼」と呼ばれる参加社員によるあいさつが大声で披露される。田川翔社長によれば、このあいさつは会社の基本動作で、あらゆる会社イベントで欠かせない所作なのだそうだ。こんな立ち居振る舞いが、横浜家系ラーメンを訪れた時の店員さんの明るさ、折り目正しさにつながっているのだと実感することができる。

「お土産」復活の光通信

光通信は「連続増配饅頭」をお土産に用意(筆者提供)
光通信は「連続増配饅頭」をお土産に用意(筆者提供)

 6月は、多くの企業が新型コロナ明けにもかかわらず、参加者へのお土産を株主「平等」原則を盾に復活させなかったことも特徴だ。こうなってくると、株主の要望を受けて昨年からお土産(写真右)を復活させている光通信の株主総会が、ますます魅力的に映る。そこからは、長いものに巻かれない、横並びしないという、同社のベンチャースピリッツが、設立から35年たった今も、脈々と息づいていることがわかるからだ。

 一方、事前に知らされることなく、当日、最高経営責任者(CEO)が欠席する株主総会にも遭遇した。去年のあるテック企業の株主総会。参加するとCEOがいない。テック企業なのに、オンラインでもつながっていない。「新型コロナによる移動制限で海外オフィスから帰ってくることができなかった」と東京に取り残された役員が申し訳なさそうに語る。この会社ではCEOが「裸の王様」であることが浮き彫りになる。こんな事例が株主総会には、ごろごろ転がっているのだ。

 ここには、昨今喧伝(けんでん)されているPBR(株価純資産倍率)1倍割れやROE(株主資本利益率)8%議論はない、時価総額も関係ない。株主総会は面接試験、私たちが友達やビジネスパートナーを見つける時に、まず相性を探るのと同じように、究極のオルタナティブ(代替)データを求めて株主総会に飛び込んでいく。PBR1倍割れのウェーブロックホールディングスの株主総会にうかがった。2000年代、リクルートのグループ再建支援を経理財務部長の立場で支えたのち同社に転職した石原智憲社長が、録画を使わず自分の言葉で、業績予想の未達をわび、捲土(けんど)重来を誓う。こんなシーンをみると、胸が熱くなり、いろいろ質問してしまう。そうすると経営側も喜び、リスク管理ばかりが重視される株主総会は、かけがえのない年中行事に化ける。

 そう、株主総会というのは、会社だけでは盛り上げることができず、株主の主体的な参加をもって初めて素晴らしいシンフォニーへと昇華していくのだ。ここが分かってしまった複眼経済塾生は、次々に株主総会に参加し質問することをライフワークとしていく。これこそが「新しい資本主義」ではないのか。定時株主総会は、本来であれば接することのない経営陣に保有株式数の多寡にかかわらず対等な立場で質問ができる場、大げさにいえば、資本主義と民主主義が年に1度だけ交わる交差点なのである。さあ、あなたは織姫になるのか、彦星になるのか!

石井食品は社員有志で株主ミーティングを実施(筆者提供)
石井食品は社員有志で株主ミーティングを実施(筆者提供)

 幸い、NTT、ファーストリテイリング(ユニクロ)、オリエンタルランド(東京ディズニーリゾート)、村田製作所といったなじみの企業の株式分割が相次いでいる。昨年10月に株式を10分割した任天堂は、投資金額の下げに伴う個人株主の増加を見込み、会場を京都の本社から京都市勧業館に変更した。その結果、総会の参加者数は昨年の187人から今年は641人と3倍以上に増えた。任天堂を愛する老若男女の株主が次々に質問台に立ち、時間が足りなかったという。ミートボールでおなじみの石井食品は、総会10日前の週末に、5時間の株主ミーティングを本社で開催。商品を試食しながら石井智康社長の議案説明を聞けるという前代未聞のイベントを実施した。1年半前に上場したばかりの理美容店向けクラウド型予約管理システムを展開するサインドは、株主総会を初めて夜に実施。会社帰りの株主にも参加してもらえるよう心を砕き、参加者は倍以上に増えた。

親子連れで参加も

 不動産の価値創造を目指す、いちごの5月週末開催の株主総会では1列目に陣取る親子連れの参加者を発見。総会後の説明会で中学生株主が質問すると、スコット・キャロン会長が「良い質問です。私もそこが分からず長谷川拓磨社長にリハーサルで聞いたんですよ」とコメントし、会場は一気に和む。こんなほのぼのとしたシーンが見られるのも株主総会の楽しみである。こんな光景が分割で株式購入のハードルが大きく下がった来年は、あちこちで見られるようになるだろう。そんな期待を込めながら複眼経済塾流の珍道中を、7月出版の『株主総会を楽しみ、日本株ブームに乗る方法』(ビジネス社)にたっぷり盛り込んだ。

 まずは実践あるのみ! 皆さんも株主総会というライブに出て、五感を使って株主総会を10倍楽しんでみませんか。そんな方々が増えていけば、いつの日か、ウォーレン・バフェット氏の米国での株主総会のように、世界から株主が集う日本企業が生まれてくるはず。そんな日を真剣に夢見ている。

(小笹俊一・複眼経済塾メディア局長)


週刊エコノミスト2023年7月18・25日合併号掲載

豪快な「あいさつ」から試食会まで 「裸の王様」トップも一目瞭然=小笹俊一

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