首都直下地震に備える 都の被害想定見直しは妥当か/152
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東京都は昨年5月、首都直下地震の新しい被害想定を公表した。東日本大震災翌年の2012年に公表した被害想定を10年ぶりに見直した。最も甚大な被害をもたらす「都心南部直下地震」では、震度6強以上の激震に見舞われる地域が東京23区の6割に達し、19万棟に建物被害が発生するという。その結果、死者は最大6148人、避難者は約299万人にのぼるとの結果が示された。
これまで国や都で想定されていたマグニチュード(M)7.3と同じ規模の直下型地震が首都圏の中枢を襲うというシミュレーションだが、犠牲者の数は前回想定の9641人より3割ほど少ない見積もりになっている。過去10年間のインフラ老朽化や東京への一極集中が一向に衰えを見せないことを考えると、被害想定の下方修正は妥当だろうかという疑問も生じる。
具体的にみていこう。都防災会議は建物の損傷と犠牲者数が3割ほど減った理由について、住宅の耐震化が進んだため全壊戸数が減ったこと、また地震後に発生する火災で延焼が心配される「木造住宅密集地域」(略して「木密地域」と呼ばれる)が減ったこと、などを挙げている。
劣化するインフラ
その一方、この想定では高速道路、鉄道、橋梁(きょうりょう)、トンネル、ビルなど都市のインフラが老朽化していることが考慮されていない。さらに、10年前と比べて首都圏の人口集中はさらに進んでおり、過密地域で地震災害が加算される過去の事例を考えると、犠牲者数は前回並みかむしろ多く想定されるべきではないかとも思われる。
実際、21年10月に首都圏で震度5強の揺れを観測した千葉県北西部地震では、ライフラインに大きな被害が生じ多数の負傷者が出た。実は、05年にも同規模の地震が同じ場所で起きていたのだが、21年の地震では05年ではなかった水道管の漏水などインフラのトラブルが多発した。21年の地震では、日暮里・舎人ライナーの先頭3両が脱輪して緊急停車したことを記憶している読者も少なくないだろう。
交通機関の不通により多数の帰宅困難者が出るなど、想定される首都直下地震より規模がはるかに小さいにもかかわらず、インフラ劣化で被害が思ったより拡大…
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週刊エコノミスト
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